ドル円相場の見通し
市川レポート(No.174)ドル円相場の見通し
- 年初からのドル円は米利上げ観測で上昇し、個々の悪材料で下落する動きを繰り返す。
- それでも値幅は過去40年で最も狭く、値幅拡大のカギを握るのは日米の金融政策とみる。
- 年内に米利上げでも、日銀の追加緩和見送りが続けば今年度中の130円到達は困難に。
年初からのドル円は米利上げ観測で上昇し、個々の悪材料で下落する動きを繰り返す
年初からのドル円相場を簡単に振ると、ドル円は1月16日に1ドル=115円86銭水準の安値をつけた後、米利上げ観測などを背景にドル高が進行し、6月5日には125円86銭水準まで上昇しました。その後は6月10日の黒田日銀総裁発言(「実質実効為替レートがここからさらに円安に振れることはない」)や、ギリシャの金融支援を巡る混乱、そして上海株の大幅調整を受け、7月8日には120円41銭水準まで下落しました。
その後は材料消化とともに再びドル高・円安基調に戻り、8月12日に125円28銭水準を回復しました。しかしながら中国経済の先行きに対する懸念や、米利上げ時期に関する不透明感が強まると、円の買い戻しが膨らみ、8月24日に116円18銭水準まで急落しました。9月以降はおおむね120円挟みでの推移が続きましたが、米金融当局者発言や雇用統計を受けて12月の利上げ見通しが強まると、11月9日に123円60銭水準まで戻しています。
それでも値幅は過去40年で最も狭く、値幅拡大のカギを握るのは日米の金融政策とみる
ドル円はこのようにかなり上下する展開が続いていますが、年初から11月12日までの値幅はほぼ10円にとどまっています。参考までに過去40年の年間平均は約27円62銭で、最小値は2011年の約10円18銭でした。つまり今年のドル円は歴史的に最も狭い値幅で推移していることになります。年末までに値幅が10円を超えて拡大するのは、ドル高・円安方向に振れた場合とみていますが、カギを握るのはやはり日米の金融政策と考えます。
実際に米国で年内の利上げが行われた場合、ドル円は一段高となり、125円台を意識する展開が予想されます。ただ利上げはかなり緩やかなペースで行われると思われますので、年内に125円を超えてドル高・円安が進行するには、日銀の追加緩和も必要と考えます。しかしながら現時点で、政府に日銀の積極的な行動を期待する様子はみられず、また日銀自身も円相場や株価が安定しているため追加緩和を急がない可能性があります。
年内に米利上げでも、日銀の追加緩和見送りが続けば今年度中の130円到達は困難に
日銀の政策には、「①異次元緩和、②円安→輸出増→製造業中心に業績改善→賃金増/②株高→資産効果、③消費増、④物価上昇」という流れが期待されています。確かに異次元緩和で円安と株高は進行しましたが、消費と物価は伸び悩んでいます。その理由として、円安→輸入物価上昇→食品価格上昇となり、特に年金受給者の裁量消費が影響を受けたこと、金融資産が現預金中心の家計には株高の資産効果は限定的であること、そもそも賃金の伸びが低いことなどが考えられます。
安倍首相は11月5日、黒田日銀総裁は11月6日に、それぞれ企業に賃上げを要請する発言を行いました。これは政府・日銀が歩調を合わせて、景気対策と追加緩和を期待する前に企業自身がまず行動を起こすよう促しているように見受けられます。そのため2016年の春闘の動向を見極めるまで日銀が追加緩和を見送り、政府もそれを容認するというケースを想定しておく必要があると考えます。その場合、ドル円は今年度中の130円到達が難しくなるとみられます。
(2015年11月13日)
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