ベネズエラ危機と原油価格
「打倒! 独裁・反米・社会主義」
南米の石油大国ベネズエラは、かねてより米欧メディアの格好の標的です。マドゥロ大統領のもとで政権が腐敗し、民主制が損なわれ、反米が根強く、そして何より社会主義が標ぼうされているからです。
この国が今、危機と希望の間で揺れ動いています。「独裁」が倒され平和裏に政権が移行するかどうか、の瀬戸際に立っているのです。首都カラカスでは先週末、数万人規模の反政府デモが行われました。今後の展開は、原油市場だけでなく多数の国を巻き込んだ国際関係にも、大きな影響を及ぼしかねません。
特権層の利益独占で経済が破たん
ベネズエラは世界一の原油埋蔵国です。しかし最近の経済は壊滅的で、国内総生産(GDP)は5年間で4割超も減りました(図表1)。計測困難となったインフレ率は、年率100万%とも言われます。
経済の破たんは、石油産業などを政権と軍部が私物化した結果と考えられます。特権層が権益をどう分けるかが最大関心事となり、能力や専門知識が軽視されたのです。民間の経済活動は厳しく制約され、投資が疎かになりました。また、物品の不足と野放図な通貨供給で、インフレが止まらなくなりました。
「正統な大統領」をめぐる闘争に
国民の多くはマドゥロ大統領を見放し、大量の移民・難民が発生しています(図表2)。それでも政権が生き長らえてきたのは、軍部の忠誠、反政府運動の分断、ロシアや中国などの金融支援、によります。
しかし、熱意と寛容さを併せ持つリーダーの登場で、状況が劇的に動き始めました。グアイド氏という35歳の国会議長が、1月、自分が正統な大統領だと宣言したのです。マドゥロ氏は不正選挙で大統領になったので合法性を欠く、というのです(憲法上、大統領が空席の場合は国会議長が暫定大統領に)。
米国の危険な賭け
直ちにグアイド氏の宣言を承認したのが米国です。そしてマドゥロ政権の収入源である国営石油会社に、制裁を発動しました。結果、ベネズエラから米国への原油輸出が減り、原油高要因となっています。
これは米国の賭けです。石油利権を狙う米国の陰謀がベネズエラを苦境に陥れた、とのマドゥロ氏の主張に、もっともらしさを与えるからです。米国とロシアの対立が激化する恐れもあります。それでも米国(および欧州主要国など)の承認は、グアイド氏を勇気づけています(日本政府は「動向を注視」)。
いずれにせよ、原油価格への影響は限られる見込み
ただし、マドゥロ氏は失脚確実、とまでは言えず、米欧メディアなどはまだ喜べません。軍部の忠誠心は意外に強い上、ロシアやトルコなどが同氏を強く支持しているからです(ただ、中国は慎重な支持)。
とはいえ、ベネズエラの産油量は昨年までにすでに落ち込んでいるため(図表1)、一層の生産減による原油高は、限られたものにとどまる見込みです。一方、グアイド氏の手腕は未知数なので、同氏が政権を握ったとしても、経済の正常化・産油量の急回復により原油急落、との展開も当面はなさそうです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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