米国取材報告②-トランプ減税という失策
好景気でも株価がさえないのはなぜか?
雇用などの統計や専門家の見解に従えば、米国の好景気は紛れもない事実のようです。これから始まる年末商戦でも、実店舗(写真1)・ネット販売ともに、昨年を上回る活況を呈するものと見込まれます。
しかしこれは、あくまでも現時点の表面的な好景気です。今後の方向について能天気にみている人は、決して多くありません。最近の米国株がさえないのも(過去半年でS&P500指数は約3%下落)、根底にあるのは将来への不安です。好環境が永続するはずがないことを、多くの人が感じ取っているのです。
将来に対するはっきりとした不安
現地における大半の専門家も、米国の実質総生産(GDP)成長率は来年から鈍化するとみています。2018年は3%程度、2019年は2.5%程度、2020年は2%以下、というのがほぼ共通の見通しです。
一般的な米国民も楽観しておらず、その表れが先般の中間選挙と言えます。好景気は与党への支持を高めるはずですが、与党・共和党は下院選で大敗を喫しました。この国は誤った方向へ向かっている、との懸念が根深いからでしょう(図表1-①)。景気の好転を認める人も、4割未満にすぎません(同-②)。
減税の景気押し上げ効果は一時的
通常、経済予想はあてになりません。しかし米国の成長率や企業利益に限れば、今後鈍化していくことがかなりの確度で予測できます。今の景気は、財政政策で一時的に押し上げられたものだからです。
すなわち、昨年末に実現した税制改革(法人税減税など)や政府支出(国防費など)の増加です。これらによって生産性が高まり、そして潜在成長率(経済の実力)が高まればよいのですが、そうした狙いは不発に終わるとの見方が優勢です。そんな冷めた見方を示しているのが、成長率の低下見通しです。
トランプ政権の減税が失策である理由
つまり、トランプ政権・共和党による歴史的偉業とアピールされる大型減税ですが、実際には失策だったことが今や明白です。第一に、将来の景気減速は不可避、という共通認識を与えてしまったのです。
第二に、景気拡大期の米国で減税を行えば、弊害を生むことが十分予想できました。案の定、生じたのは「減税→景気過熱→金利上昇→株価の下落」といった思わくです。第三に、減税はさほど歓迎されていません(図表1-③)。利益を受けるのは大企業や富裕層だと理解され、社会の分断を深めたのです。
米国を覆う薄暗い雲
「トランプ減税」の害悪はそれらだけではありません。第四として、減税(や国防費増加など)による財政赤字の膨張です。この結果、本当に必要なところへ財政資金を振り向けるのが困難になりました。
中でも基本インフラです。米国の道路、橋(写真2)、地下鉄などの老朽化はひどいものです。一部の富裕層がいくら資産を蓄えても、公共施設が貧弱では豊かな国と呼べません。富の分配に失敗したのです。米国のこのような現実をみると、その行方は薄暗い雲に覆われている、と実感せざるを得ません。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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