サウジアラビアをめぐる市場の反応と米国の苦境

2018/10/24

一つの事件が世界を揺るがす

一人のジャーナリストをめぐる事件が、サウジアラビア(以下、サウジ)と米国との間に亀裂を生み出しています。最近の米国株や日本株などが精彩を欠いているのは、この事件も無関係でありません。

これは米欧の価値観や中東の主導権争いが絡んでいるので、日本人には理解しにくい問題です。しかし実は、国際関係や金融市場(特に原油)、さらに米国への信認を揺るがしかねない破壊力を秘めています。よって米国やサウジの対応はもちろん、証拠を握っているとみられるトルコの動きにも要注意です。

事件の経緯

10月2日、反体制派として著名なサウジ人、ジャマル・カショギ氏がトルコにあるサウジ総領事館へ出向いた後、消息を絶ちました。サウジの工作員に殺害されたものとみられます(同氏は危険を少し予感していたようですが、それでも領事館へ行ったのはトルコ人女性との結婚に必要な書類を得るため)。

このジャーナリストは弾圧を逃れて米国に昨年移住し、ワシントンポストに月1本ほどコラムを寄稿していました。それらはサウジの事実上の支配者、ムハンマド皇太子の独裁に批判的で、アラブ世界の自由と民主化を力強く希求するものでした。サウジの支配層には邪魔な存在だったことが想像されます。

なぜ大騒動になっているのか?

よってカショギ氏が権力によって排除されたのだとすれば、殺人の一つでは済まされません。これは、米欧メディアが金科玉条とする「言論の自由」に対する重大な挑戦です。それだけに米国などのメディアは事件にかかわるサウジの不明瞭な説明を厳しく批判しており、これが騒動に拍車をかけています。

サウジに共感する米国人はもともと多くありません(イスラエルには寛容ですが)。そのため、議会でもサウジ批判が相次いでいます。超党派でサウジへの制裁が主張されているのです(武器輸出凍結など)。

武器と投資

とはいえ米国とサウジは、今まで経済・軍事面で緊密な協力・同盟関係を築いてきました。それをよく表すのが武器の取引です。サウジは世界第2位の武器輸入国ですが(1位はインド)、そのうち約6割が米国からの輸入です(図表1)。米国にとっても、サウジは最大の武器輸出先です(武器輸出の約2割)。

また、サウジ政府系の投資基金は米国の新興企業などに多額の投資を行っています(なお、日本のソフトバンクグループの投資ファンドについても、運用資金1,000億ドルのうち450億ドルをサウジが出資)。そうした投資はイノベーションの一助となってきただけに、これが滞れば株価などに影響します。

劇的な関係悪化の場合→原油高騰、安易な事態収拾の場合→米国の信認失墜

このため米国は、サウジとの関係断絶を望んでいません。したがって「米国の厳しい制裁→サウジの報復(原油禁輸など)→原油高騰」の可能性は低く、原油は逆に下落しています(図表2)。むしろ増産の用意がある旨、サウジが現時点では表明しているためです(ただ、下落は世界景気の減速懸念も背景)。

しかし安易な形で事態が収拾された場合、別の面で米国に禍根を残します。これまで米国が啓発してきた人権や言論の自由は絶対的な価値ではなく、経済的な考慮などの方が大切なのか、との印象が残ってしまうのです。試されているのは米国の価値観と米国への信認であり、この点こそが事件の本質です。

図表入りのレポートはこちら

http://www.skam.co.jp/newest_report/contents_type=8&type=topics

 

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