トランプ政権の「脅し戦術」に正義はあるのか?
NAFTA存続は大きな朗報
トランプ米大統領に翻弄される今の世界では、破局が避けられただけでも金融市場で好感されます。
北米自由貿易協定(NAFTA)に関する一応の決着も、それにあたります。米国・カナダ・メキシコ間の貿易(図表1)に多大な貢献をなしてきたこの協定は、一時は存続が危ぶまれる事態になりました。「過去最悪の協定」などとトランプ氏が激しく非難していたからです。しかし8月に米国とメキシコ、9月末には米国とカナダの政府間で改定案が合意に至り、協定破棄という最悪の事態は回避されました。
脅し→微調整→勝利宣言
ここで示されたのは「相手をさんざん脅した挙句、若干の調整で交渉を妥結、これを大勝利と宣言」というトランプ流の戦術です。今回はNAFTA離脱や自動車への関税を「脅し」として用い、メキシコとカナダから譲歩を引き出すことに成功しました。特に、自動車の原産地規則についてです(関税ゼロが適用されるには、金額ベースで部品の75%以上を北米内で調達することが必要に。現行は62.5%)。
もっとも、これが米国内の投資・雇用増をもたらすかは定かでありません。また、カナダからは乳製品市場の参入障壁を引き下げるといった譲歩を得たものの、これによる輸出増はわずかな規模でしょう。
トランプ氏は真の反グローバリストではない
しかしトランプ氏としては、NAFTAの微修正では格好がつきません。そこで「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」と改称し、歴史的勝利だと吹聴しています。それを絶賛する同氏の支持者は少なくないので、政治的にはたしかに勝利かもしれません(ただし、協定発効には各国議会の承認が必要)。
とはいえ今般の合意が示すこととしては、次の点が重要です。つまりトランプ氏の保護主義は、必ずしも反グローバリズムを意味するのではないということです。同氏が望むのは鎖国ではなく、米国に有利な通商条件です。そして少しでも有利であれば満足するという、現実的な面も持ち合わせています。
日本は自動車関税という「脅し」に屈するのか?
以上のようなトランプ氏の交渉戦術や実利主義は、日米の通商交渉でも遺憾なく発揮されるでしょう。
9月下旬には、事実上の自由貿易協定(FTA)に向けた2国間協議を行う旨、日米両政府が合意しました(物品貿易協定(TAG)と日本政府は呼んでいますが)。関税を使った脅し戦術の有効性を確信したトランプ政権は、自動車への追加関税をちらつかせつつ、農産物の市場開放や自動車の輸出枠設定を日本に求めるはずです。新NAFTAに盛り込まれたように、通貨安誘導の禁止も言及されそうです。
米中貿易摩擦をまだ楽観できない理由
しかし、貿易摩擦の行方を楽観視するのはまだ早いでしょう。まだ米中の対立が残っているのです。
その解決が難しいのは、第一に、中国の通商政策は不公正と思う米国人が多いからです(図表2)。第二に、米中の覇権争いが背景にあるからです。第三に、米国の対中貿易赤字が巨額だからです。第四に、中国は、カナダやメキシコほどには対米貿易に依存していないからです(経済規模比で)。したがって第五に、関税という脅しに屈する必要が乏しいからです。ただ、この点は中国にも正当性があります。相手を脅して自分に有利な条件を得るというトランプ氏の流儀は、どう考えても正義に反するためです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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