中国の野望と開放路線

2018/04/11 <>

「開放」vs.「米国第一」

中国・海南省で今週開催された経済会議「ボアオ・アジアフォーラム年次総会」は、成熟しつつある中国を世界に印象づけるものとなりました。最も注目されたのが、習近平主席が行った昨日の演説です。

総会のテーマは、「世界の繁栄のための、開放的で革新的なアジア」です。「米国第一」を掲げるトランプ政権との違いを際立たせたいのでしょう。また、習氏の演説では「開放」が強調され、自動車の関税(現在25%)引下げなどが示されました。市場はこれを好感し、各国の株価は一旦大幅に上昇しました。つまり、トランプ氏が貿易戦争をあおり、皆を混乱させ、それを習氏が和らげる、という構図です。

改革開放40周年を迎えて

「開放」が強調されるのは、今年は「改革開放」の40周年にあたるため、という事情もあります。

40年前、中国が今のような経済大国になるとは、誰も予想できませんでした。ただ、特に発展したのは世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年頃からです(図表1)。それだけに、市場開放の利点は中国が一番わかっています。もちろん実際は、中国市場が完全に開放されたとは到底言えません。しかし、重要なのは方向性です。中国は緩慢ながらもたしかに市場開放を進め、驚くべき発展をとげたのです。

米欧を驚かせた「メイド・イン・チャイナ2025(中国製造2025)」

そうした自信に裏打ちされた中国の野望は、2015年発表の「メイド・イン・チャイナ2025」において鮮明です(図表2)。ただ、「製造強国」を目論むそのプランは、米欧を驚かせ、かつ警戒させました。

内容は、電気自動車やロボットなどを重点分野とし、それらの技術開発を促すべく金融面などで政府が支援を行う(国有銀行による低利融資、海外企業の買収支援など)というものです。こうした国家ぐるみの戦略は中国(および以前の日本)では自然ですが、米欧からみると市場経済のルール違反です。

「自由貿易の守護者」はどちらか?

中国の取引慣行に対するトランプ政権の不満についても、背景にあるのは中国の野望への危機感です。ただし、「自由貿易の守護者」を自認する中国には、閉鎖的で不公正な面が多く残っているのも実状です(海外から投資を行う際の厳しい制約など)。このような言行不一致は、中国も自覚しているはずです。

よって米国は本来、欧州や日本とも連携し、国際的なルールのもとで中国に開放を求めるべきです。しかしトランプ氏はそうした手法には関心がなく、自由貿易に逆行する脅し(輸入関税など)を用いた二国間交渉にこだわります。これでは、米国の方も「自由貿易の守護者」を名乗る資格がなくなります。

本格的な貿易戦争の可能性は低いが・・・

とはいえ今回、習主席が部分的な市場開放策を示したことから、トランプ氏はこれを自分の手柄だと吹聴できるでしょう。こうした一連の流れをみると、米中間の緊張は当面、貿易摩擦(挑発や口論)にとどまり、貿易戦争(全面的な輸入規制の応酬など)にエスカレートする可能性は低いと考えられます。

ただし、摩擦は解消しないでしょう。中国は市場開放を自国のペースで徐々に進めるので、抜本的な改革を求める米国とは深い溝があるからです。国家主導方式も中国は譲れません。米中が並び立つ中、世界にとって不幸なのは、この二大国のいずれについても、完全に信用できるとは言えないことです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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