米国株の下落は続く?:パウエル氏の発言よりも経済指標に注目

2022/09/05

パウエル議長の講演

油断するのは、まだ早かったようです。6月中旬から上昇基調だった米国株が、再び下落しているのです(9月2日、S&P500は8月16日の終値比で約9%下落)。ただ、下落が続くとは言い切れません。

株安を加速させたのは、特に8月26日に米国で開かれたジャクソンホール会議という、毎年のイベントです。そこでの講演で、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、インフレを抑えるためには利上げの継続が必要だと強調しました。そうした「タカ派」姿勢(強硬姿勢)を、投資家は嫌気したのです。

重要なのは経済指標

ただ、パウエル氏の講演を受けた株式市場の反応は、やや行き過ぎでしょう。たしかに全体のトーンはタカ派的と言える講演でした。しかしインフレ退治を最優先とする姿勢は、それ以前から示されています。

また、今回の講演でも、将来の利上げペースは「(物価や雇用などの)データ次第」だと表明されました。パウエル氏が率いるFRBはこの点で一貫しており、市場参加者はそれを言葉どおり受け止めるべきです。つまり利上げペースを決めるのは、FRB高官による現在の発言よりも、今後発表される経済指標です。

FRBにも自信なし

米国のインフレや景気の予測に関し、FRBも自信を持っていません。来年、FRBの予測以上にインフレ率が急低下する一方、景気が急減速するかもしれません。その場合には、利上げを停止するでしょう。

1年前のパウエル氏は、足元のインフレ高進は「一時的」なものである可能性が高い、などと述べていました。しかしインフレは全く収まらず、昨年11月末、「一時的」との見方を撤回しました。今年はさらにインフレが加速する中、FRBは予測に自信を失い、インフレを過剰に警戒しているのかもしれません。

ほぼ前代未聞の状況

コロナウイルスの感染拡大、さらにウクライナ紛争の勃発によって、世界経済には大きなゆがみや問題が生じました。サプライチェーン(部品などの供給網)の混乱、労働力不足、資源高・食料高などです。

そうした問題がこれほど大規模に、かつ同時に生じたことは、近年では例がありません。そのためFRBとしても、経済の予測が困難になっています。中でもインフレの厳密な予測は難しく、様々な物価指標を点検することで、FRBも市場参加者も、インフレの先行きに関し大体の見当をつけるしかありません。

インフレは鈍化傾向

この点、複数の指標は、インフレ鈍化の兆しを見せています(例えば図表1、2)。大きな要因として、世界景気の減速観測などによる、原油価格の下落が挙げられます(ただ、欧州の天然ガスなどは依然高値)。

よって米国のインフレは今後、徐々に鈍化しそうです。しかしFRBが油断を示すと、経済が過熱しかねず、インフレ鈍化を妨げます。だからこそパウエル氏らは、利上げ姿勢を強調しているのでしょう。「タカ派」にはそうした事情もあるので、FRBの姿勢に過剰反応するよりも、指標の点検に努めるべきです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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