楽天証券投資Weekly 2013年3月22日 第29号
特集:不動産株
マーケットコメント
2013年3月18日の週の株式市場は、キプロス情勢に振り回される展開となりました。
欧州の小国キプロスの金融危機に対するEUの支援が17日に決まりましたが、その際、キプロスの銀行預金に対して課税することになりました。これに対してキプロスの銀行預金者が反発し、17日日曜日にはATMから預金を引き出す動きが広がりました。これが新たな金融危機に結びつくかもしれないという懸念から、18日の日経平均は、前日比340.32円安の12,220.63円で引けました。その後は問題は早期に解決するだろうという楽観的な見通しから、19日、21日と日経平均は急速に戻し、21日ザラ場で12650.26円を付け戻り高値を更新しました。
しかし、キプロス問題への懸念は根強く、19日のキプロス議会で預金課税案が否決されたことで、事態は不透明感を増してきました。21日の欧米市場が下げたこと、円高になってきたことを受け、22日の日経平均は300円近く下げて引けました。円高になっているため、ソニー、シャープ、村田製作所、京セラなどの電機、電子部品が下げ、トヨタ自動車、本田技研工業などの自動車も下げました。輸出関連以外でも、三井住友フィナンシャルグループなど金融大手も軟調な展開でした。
一方、今週に入り調整入りしている三菱地所、三井不動産、住友不動産など大手不動産株は22日に引けにかけて軟化したものの、一時切り返してきました。J-REITは上昇している銘柄が多くなっています。21日に公表された公示地価によって日本の地価の底入れ接近が確認できたことに反応している模様です。ただし、平和不動産、トーセイなどの中堅不動産や、三井倉庫、飯野海運、東京都競馬などの土地持ち企業の株価は軟調なままです。不動産株の今後が注目されます。
また、21日日経夕刊は、南鳥島沖の海底の泥から高濃度のレアアースが発見されたと報じました。これを受けて、海洋資源開発を手がける日本海洋掘削、三井海洋開発の2社の株価が再び上昇しています。今月12日に経済産業省が三重県沖の海底から、世界で初めてガスを分解して取り出すことに成功したと発表しましたが、日本近海に大きな資源が埋まっていることがはっきりしてきました。日本海洋掘削、三井海洋開発だけでなく、洋上建造物を作ったり掘削技術を開発しているIHI、三菱重工業、三井造船などの株価も動いており、今後が注目されます。
小国といえども、EUの金融支援に際して当該国の国民に対する預金課税の可能性が出てきたことから、今後預金課税への警戒感がEU全体の預金者を動揺させることが懸念されます。そういう意味で、今回の事件はEUの失態と言えるでしょう。
当面は、キプロス問題が株式市場に消化されるのを待つ必要がありそうですが、新体制が発足した日銀が早々に大幅金融緩和に乗り出すと思われることから、再び円安に転換する可能性があります。そうなれば、自動車、電機、機械、総合商社などの円安メリットセクターの株価回復が期待できると思われます。特に、4月下旬から5月上旬にかけて2013年3月期決算と2014年3月期業績見通しが公表されるため、円安メリットの大きなトヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダなどの自動車、三菱商事、三井物産、丸紅などの総合商社に注目したいと思います。
また、大幅金融緩和ならば、三菱地所、三井不動産、住友不動産など大手不動産や、三井倉庫、飯野海運などの土地持ち企業も再び物色される可能性があると思われます。
表1:楽天証券投資WEEKLY
グラフ1 日経平均株価:日足
グラフ2 日経平均株価:月足
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ4 円/ドルレート:日足
グラフ5 円/ユーロレート:日足
マーケットスケジュール
2013年3月25日の週のマーケットスケジュールを概観します。
日本での注目点は28日です。この日に、2月の鉱工業生産指数(速報)、大型小売店販売額(速報)、全国消費者物価指数、全世帯家計調査などが公表されます。企業の生産水準と、個人消費の動きが確認できると思われます。数字次第では株式市場と為替市場に影響を与える可能性があります。
また、アメリカでは26日に2月の耐久財受注と新築住宅販売件数が公表されます。
なお、29日はグッドフライデーとなり、ニューヨーク、ナスダック、香港、シンガポール、オーストラリア、フランクフルト、ユーロネクストが休場になります。
経済カレンダー
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/calendar/
特集:不動産株
地価は上昇に転換か:昨年9月頃から三菱地所、三井不動産など大手不動産中心に不動産株が上昇に転じています。国土交通省が四半期ごとに公表している地価LOOKレポートを見ると、昨年半ばから全国の地価が下げ止まり始めたことがわかります。また、3月21日に公表された国土交通省の公示地価によれば、地価の減少率が縮小しており、一部の地域では上昇に転じ始めています。
地価のこのような動きと、アベノミクスによる大幅金融緩和期待とがあいまって、不動産関連銘柄の株価が大きく上昇しています。三菱地所、三井不動産、住友不動産のような大手だけでなく、トーセイ、平和不動産などの中堅不動産会社、飯野海運、東京都競馬などの不動産事業を併営している土地持ち企業の株価も上昇しています。
表2:2013年地価公示価格 圏域別・用途別対前年変動率
3月20日から日本銀行が黒田新総裁以下の新体制に移行しました。残存期間の長い国債やREITの購入など、これまでの金融緩和よりも、より踏み込んだ金融緩和を早々に実行することが予想されます。その場合、大幅金融緩和による地価上昇を見込んだ内外投資家の不動産投資活発化、円安継続による輸出企業の業績回復によるオフィス需要の増加などによって、地価が本格的に上昇に転じる可能性があります。不動産株はすでに大きく上昇していますが、今後の地価動向を見ると、調整を伴いながらも、大手、中堅不動産、土地持ち企業の株価は上昇の余地があると思われます。
ちなみに、日銀が考えるような2年間での物価上昇率2%が実現できない場合、大幅金融緩和が2年以上に長期化する可能性があります。その場合、物の物価上昇率が上がらずに、資産インフレ(バブル)が起こる可能性は否定できません。不動産株にはそういう意味での妙味もあると思われます。
実質PBRを見ると割高ではない:表4は、各社の有価証券報告書に記載されている賃貸不動産の含み益をその期の純資産に加算して「実質純資産」として、これと時価総額との比率を調べたものです。三菱地所、三井不動産、住友不動産の大手3社は実質PBR(株価/純資産倍率)が1~1.2倍程度ですが、この3社は賃貸不動産の面積が大きく、開発能力が他社に比べてずば抜けており、総合力を検討すると、まだ割高にはなっていないと思われます。
大手不動産会社は東京駅周辺で活発な開発を続けており、三菱地所は丸の内から大手町にかけて広域開発を続けています。それが終わった後は有楽町の再開発を行う模様です。三井不動産は日本橋から三越前にかけての開発を続けていますが、住友不動産も日本橋の再開発に参入しています。兜町・茅場町は平和不動産と三菱地所が協働して再開発のプランを策定中であり、地上げも始まっています。
このような積極的な再開発が、賃料と地価の上昇を後押しすると期待されます。
実質PBRを見ると、割高になっていない会社が多いと思われますが、PERは上昇しています。例えば、三菱地所の2013年3月期予想PERは70倍以上になっています。ただし、同社は現在丸の内から大手町にかけての自社ビルで賃貸料の値上げ(5~10%)に入っています。丸の内、大手町で10%賃料が上昇すると年間営業利益が約300億円増える要因になります。また、株価上昇の後には1億円以上の高額マンションの売上増加も期待されます。これらの動きは他の大手も概ね同じと思われます。
中堅不動産と土地持ち企業にも注目したい:平和不動産、NTT都市開発のように、都心の一等地に賃貸ビルを保有し、かつ実質PBRが1倍以下の不動産会社、三井倉庫、住友倉庫、三菱倉庫、商船三井、日本郵船、飯野海運、NTT、東宝のように、実質PBRが1を大きく下回っている土地持ち企業の株価についても、水準訂正の余地があると思われます。また、JR東日本の実質PBRは1倍を上回っていますが、同社も駅前開発能力の高い会社であり、大手不動産会社に準じた見方をして良い会社と思われます。
表4:不動産関連企業の実質PBRと予想PER
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