楽天証券投資Weekly 2013年1月11日 第19号
特集:新年の株価を考える3
マーケットコメント
2013年1月7日の週の株式市場は、2012年11月からの上げ相場に対して調整する展開となりました。アメリカで「財政の崖」回避にの為のに交渉が妥結したことを受け、NYダウは12月31日、1月2日と大幅高しました。東京市場もこれを受けて、為替レートが対ドル、対ユーロともに円安が加速、日経平均も4日は前年末比292.93円高の10,688.11円に上昇しました。2011年3月の東日本大震災の前の水準に戻りました。ただし、翌週7日は、寄り付きで10,700円台に乗せたものの、次第に売り物に押され、結局、7日、8日は10,500円台に下落しました。
ただし、9日からは円安や金融緩和による業績改善期待から買い直され、10日も続伸、11日も前場から100円以上上げて後場には10,800円台に入っています。自動車株が、大手のトヨタ自動車、本田技研工業から中堅の富士重工業、マツダまでが買われ、マツダは10日に戻り高値を更新しました。本田技研工業、富士重工も11日前場に直近高値近くまで上昇しました。
韓国サムスン電子がスマートフォンの好調で好業績を発表したことを受け、スマートフォン向け電子部品に強い村田製作所も買われました。自社ビル売却を発表したソニーも上げました。
一方で、安倍内閣での規制緩和期待からこれまで急騰してきたアイフルなどの消費者信用会社や信販会社株は10日に急落し、11日にやや戻す展開となっています。代わって、マツダや川崎汽船のような円安で業績改善期待のある低位株が物色されています。
また、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングスなど大手金融株は高値もみ合いになっていますが、三井住友フィナンシャルグループは10日に戻り高値を更新しており、同じセクター内でも株価の位置に変化が見られます。
このように、物色対象に変化はありますが、基本的には強い相場が続いています。楽天証券の信用取引評価損益率は12月27日からプラスが続いています。これまでの経験則からは一旦調整に入ってもおかしくない状況であり、実際1月7、8日にごく短期の調整がありました。しかし、1月から信用取引の規制が緩和されて、同じ証拠金で一日に何回でも取引可能になりました。そのため、従来と異なり、信用取引評価損益率がこのまま上昇し、個人投資家の売買回転が激しくなり、それが相場上昇の更なる上昇の大きな要因になる可能性があります。この場合、一旦下げ相場になると逆の展開になりますので、注意は必要ですが、今は信用取引の規制緩和は強気相場を支援する方向に働いていると思われます。
日経平均は、当面12,000円を目指す展開にあると思われます。引き続き銘柄を探して買いたい相場であると思われます。
表1:マーケット指標
グラフ1 日経平均株価:日次
グラフ2 日経平均株価:月次
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
マーケットスケジュール
2013年1月14日の週のマーケットスケジュールを概観します。
日本では、16日に12月の消費動向調査が公表されます。同日に11月の機械受注も公表されます。
アメリカでは、15日に12月の小売売上高が公表されます。16日には、12月の消費者物価指数とベージュブック(米地区連銀経済報告)が公表されます。続く17日には、12月の住宅着工件数と建築許可件数が公表されます。
アメリカのベージュブックと住宅関連統計が注目される週となりそうです。
経済カレンダー
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/calendar/
特集:新年の株価を考える3
年頭に、安倍政権の経済、財政、金融政策をマクロデータを見比べながら概観し、銘柄選択に結び付けてみたいと思います。
1.円安の効果は大きい
安倍政権は発足してまだ1カ月未満ですが、これまでの成果は大きなものがあります。選挙前からの実質的な「口先介入」によって、為替レートは対ドルで1ドル=79円台から1ドル=89円台へ、対ユーロでは1ユーロ=101円台から1ユーロ=118円台へ下落しました。これを受けて日経平均は、11月13日ザラ場安値8,619.45円から10,800円台まで約25%上昇しました。前回の上げ相場(2011年11月から2012年3月まで)の上昇率が26%ですから、それに匹敵する上昇率になりましたが、今のところ調整の気配はないようです。
この円安と株価上昇は次のような経路で景気回復に結びつくと思われます。円安→輸出企業の業績改善→株価上昇→資産効果による投資、消費の増加、あるいは、株価上昇→資産間の相対的な割安感やREIT株上昇→REITの資金調達活発化による不動産価格上昇→担保価値上昇による企業家の事業意欲の盛り上がりや銀行の融資活発化→景気回復、です。ここでポイントになるのは、株価の上昇が地価上昇に結びつけば、銀行融資と企業の事業意欲の両方が活発になり、景気は回復する可能性が高いということです。
従って、大幅金融緩和を続けることで大きく円安になったため、これを持続させることができれば、金融緩和の目的はほぼ達成されたといってもよいと思われます。
グラフ4 円/ドルレート(日足)
グラフ5 円/ユーロレート(日足)
2.相矛盾する安倍政権の政策
一方で安倍内閣は、物価上昇率2%の目標を設定せよと日銀に迫っています。また、事業規模20.2兆円の大型補正予算も組みました。この調子で進めば来年度予算も大型予算になりそうですが、これらの政策とこれまでの円安政策には相矛盾するものがあります。
まず、大型補正予算を組むに当たって、国債を増発することになります。このため、自民党政権が出来る可能性が見え始めた頃から、長期債、超長期債中心に国債利回りが上昇し始めています。このまま金利上昇が続けば、それは円高要因になってしまい、円安の効果は減殺されることになります。
また、金利上昇が起こると、政府の利払いが増えることになります。現在政府債残高は約700兆円ありますが、借換債を年間約110兆円発行しています。そのため、1~2%の金利上昇は直ちに1~2兆円の利払い費増加になって財政を圧迫するでしょう。約6年で金利上昇の効果は政府債全体に広がりますので、もしその間に税収が増えたり増税したりするのに十分な景気回復が無ければ、日本政府は今以上の財政難に直面することになるでしょう。
また、安倍政権は金融緩和による2%の物価上昇を目標にしていますが、物価上昇と景気回復は別です。金融緩和によって物価上昇率2%が達成された場合は、今の状況では実質金利はゼロ以下のマイナス金利になると思われますが、この状態を長く続けているとバブルが発生し、あるいはインフレになり、後の処理に困ることになるでしょう。そのため、いずれは物価上昇率2%に対して金利水準を正常化する必要、即ち金利を2%以上にする必要がありますが、これも利払い増加に繋がります。
要するに、名目金利が上昇するまでに、景気が回復し、企業業績がよくなり、個人の所得が増えれば、所得税、法人税、消費税ともに税収が回復し、あるいは増税も可能になるでしょうが、それまでは金利上昇を抑えなければ、財政難が表面化する可能性があるということです。安倍政権は日銀と共にかなり難しいオペレーションを行わなければならないということです。
ちなみに、民主党政権では政権発足当初に円高になり、民主党政権はそれに有効に対応できなかったため、円高によって日本のお金が日本国内に閉じ込められた形になりました。そのため、公共投資をいくら行っても、円高で減殺されて効果は出ませんでしたが、お金が預金に滞留したため、国債は十分消化できました。大震災もあって陰鬱な時代でしたが、金融市場は低位安定していたといえるでしょう。
一方、自民党政権では、最初に円安になり株高になったので、経済には既に活気がでています。しかし、円安ですから、日本のお金を日本の外を見始めています。財政難は以前よりもひどくなっているため、景気が十分回復し所得が増加した後まで金利上昇を抑える必要がありますが、安倍政権は大型金融緩和と同時に大型の公共投資も行おうとしています。また、上述のように、物価上昇率の目標設定を行うと、将来金利を物価上昇率以上に引き上げる必要があります。もし上述のような各種の要因で金利上昇が起こると、今の財政難の中では、利払い費の急増→国債危機の表面化→金利急騰という結果、そして、日本から海外への資本逃避という結果を招きかねません。こうなると、大幅な円安、高金利、輸入物価の上昇が起こる可能性があります。
あるいは、金利上昇が起こったときに円高になれば、再び国債にはお金が集まるようになるかもしれません。ただし、株式市場の上昇相場はその時点で終わり、再び低位安定の陰鬱な時代になるかもしれません。
3.輸出か内需か
日本は既に内需主導の経済になっています。名目GDPに対する輸出比率は2012年7-9月期で約15%です。アメリカはこの数字が14%ですが、アメリカは3億人の人口が今も増え続け、資源国でもあり、巨額の軍事予算もある、巨大な内需を持つ国ですから日本とは事情が違います。ドイツの場合は2011年でGDPに対する輸出比率が41%です。輸入も同じく35%なので、これで貿易摩擦を防いでいると言えます。
日本は過去何度も大型公共投資を行ってきましたが、効果はあまり出ませんでした。それは内需が飽和しているだと思われます。日本が目指すべきなのはドイツのような輸出立国であり、貿易摩擦を避けるために輸入も増やす必要があります。
そのためには、仲間作りが必要なので、TPPへの参加は非常に重要になりますが、安倍政権がどうするかは不透明です。
4.内需企業と、輸出株、グローバル経営の企業
復興がこれから本格化するため、内需株を否定するつもりはありません。今の大勢上昇相場には付いていったほうがよいと思われます。ただし、上述のようなリスク、民主党政権に劣らず自民党政権の政策も矛盾が多いということを認識しておく必要はあると思われます。
その意味で、日本株のポートフォリオを組む場合は、建設、不動産などの内需関連株(例えば、大成建設、大林組などの大手建設、NIPPO、ライト工業などの中堅、専門建設、三菱地所、三井不動産などの大手不動産など)もよいとは思いますが、自動車、電子部品、商社など、国際競争力が高く、あるいは、良質の海外権益を持っている輸出株やグローバル企業に注目する必要があると思われます。
銘柄で言えば、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、デンソー、アイシン精機、いすゞ自動車、村田製作所、小松製作所、IHI、三菱商事、三井物産、丸紅などです。
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