パラダイムシフトはある日突然生じるものではない
4日に日経平均株価は4万円台に到達しました。市場では夏頃に4万3000円に達するという見方も出ているようです。
しかし、NT倍率は既に14.73倍と高水準であり、先物・オプション主導で相場が形成されているように感じます。過去のNT倍率は、コロナ禍の過剰流動性相場であった2020年12月~21年5月の15倍超を除けば、23年6月の14.65倍(週末ベース)が高値です。日経平均の方がTOPIXよりもEPS成長率が若干高い傾向があるので長期的にはNT倍率は上昇傾向にあると言えますが、短期的には、相場の過熱感を示していると思われます。
TIWが算出している日経平均のインプライド・リスク・プレミアム(来期ベース)では、5.53%と一つの目安である6%を割り込んでいます。やはり、コロナ禍の21年1月に5.13%という最低記録はあるものの、過熱感が高いということには変わりがありません。
しかしながら、過熱感が高いからと言って直ちに市場が崩れるとは言えず、さらに過熱する可能性も否定できません。それは過去に生じたいくつかのバブルを例に挙げるまでもなく、3年前にも過剰流動性相場を体験していることが示しています。それでは、一体何が相場の方向感を齎すのでしょう。また、何が転換のきっかけになるのでしょうか?
米国の“マグニフィセント7”に代表される生成AIブームは関連企業をはじめとした設備投資が今後もしばらく継続・本格化することから簡単には崩れないかもしれません。ただし、一方で米個人消費は強いとは言えず、インフレや高金利の影響が顕在化しつつあります。2月28日発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数(2月)は106.7と市場予想(115.0)を大きく下回った。また、1月も114.8→110.9と下方修正されています。
FRB高官の発言も7月頃に利下げに転じる可能性を示唆し始めており、リセッションには至らないと考えますが、経済減速が顕在化する中で(状況は予想されていたものであっても)市場のセンチメントが変化することも考えられます。また、何よりもウクライナやガザといった地政学リスクが大きく存在します。こちらは予測が難しく、どのように生じたときあるいは生じなかったときのリスクを織り込むのかが困難です。さらに、米大統領選挙は今後の展開次第では(米国の内戦状態を含む)大波乱の目となる可能性もある。再生可能エネルギーやEV推進など地球温暖化対策も原油などの一次エネルギー価格を押し上げる可能性があります。前述したAI投資も電力消費を押し上げる可能性もあります。
一つだけ確かなことは、現在の上昇相場もいずれは終わるということです。それを決定づけるのは市場参加者のセンチメントの変化です。センチメントは日々振れながら個々人の認識を少しずつ変えてゆきます。そのため、大きな事件がなくても、何か小さなことを切っ掛けに方向転換する可能性もあります。
パラダイムシフトはある時に突然起こるのではなく、いくつかの事象が絡み合い、人々の認識が徐々に変化することから生じるものです。長々と書き連ねましたが、結局は明確な答えはないと言わざるを得ません。直接関係ないようなニュースも注意を置き、センチメントを感じ取ることが肝要であると思います。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。