米長期債利回り低下による楽観は、いずれ“暗転”する
6日にFRBが発表した7-9月期の米銀の融資担当者調査(SLOOS)において、全体の76%が商業用不動産向け融資基準を3カ月前と比べて「かなり厳しくした」あるいは「厳しくした」と回答しました。7日にニューヨーク連銀が発表した7-9月期のクレジットカード延滞率(30日以上の延滞)は前年同期比17%増加し、8.01%と12年ぶりの高水準となりました。米国全体のカード債務残高は1兆790億ドル(約160兆円)と統計開始以来最高となっております。
10日にムーディーズは米国国債の格付け見通しをこれまでの「安定的」から「ネガティブ」に変更しました。直ちに格付けが引き下げられるわけではありませんが、金利上昇要因と考えられます。17日には現在のつなぎ予算の期限を迎えますが、本予算が成立する見通しにはなく、再度つなぎ予算で対応する見通しですが、一筋縄には行かない可能性を秘めていると思われます。こうした状況にもかかわらず、米国株式市場は米長期金利の低下とFRBが早期(来年春頃)に利下げに転じる可能性への期待から増勢が続いています。
日本株も米国株式市場の好調と、半導体不足からの生産回復に加えて円安やインバウンド効果によるポジティブ面を捉えた動きとなっています。企業業績は全体としては上方修正が勝っているようですが爬行色が強く、小売り関係や自動車が好調な一方で、電子部品や化学などは海外の需要減の影響を受けて苦戦を強いられています。
個人関連においては、9月の毎月勤労統計(7日発表)では実質賃金が前年同月比▲2.4%と18カ月連続マイナスとなっています。家計調査の消費支出においては前年同月比▲2.8%と7カ月連続マイナスとなっており、依然として好転する様子がありません。
今週は米国経済指標においては、14日:米消費者物価指数、15日:米企業物価指数、米小売売上高、16日:米鉱工業生産(いずれも10月分)が発表されますが、いずれも景気減速を示す内容になると見込まれています。
株式市場の増勢がいつまで(どこまで)続くのかは見通せないものの、FRBの利下げ期待よりも景気悪化が深刻にとらえられるようになる場合や、地政学リスクの増大化などによって一瞬で“暗転”する可能性が存在することは意識しておきたいと思います。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。