日銀YCC修正で悪抜け、目先株式市場は強含みも企業業績次第
先週は米・欧・日の中央銀行の金融政策決定会合が集中し、注目を集めました。
7月25-26日の米FOMCにおいては市場の予想通り0.25%の利上げが行われ、FFレートは5.25~5.50%と2001年3月以来の水準となりました。パウエル議長は記者会見で「FRBのスタッフはもはや景気後退を予測していない」と述べたこともあり、リセッション懸念は大きく後退した。また、この7月が最後の利上げになる(年内利上げなし)と観る向きも増えているようです。28日発表の6月の個人消費支出(PCE)物価指数では、前年同月比+3.0%と5月(+3.8%)から大きく低下しており、インフレ後退も意識されています。
27日のECB理事会も9会合連続となる0.25%の利上げを決定しました。主要政策金利は最も高い2000年10月から01年5月の水準に並ぶ4.25%となりました。ユーロ圏のインフレ率は国ごとにまちまちではありますが、低下傾向にあり、次回の会合での追加利上げに関してはスキップされるとの観測も生じてきています。
27-28日の日銀金融政策決定会合では、長短金利操作(YCC)に対して修正が行われました。長期金利の「めど」は0.5%を維持しつつも、0.5%を一定程度超えることを容認する。ただし、「連続指し値オペ」の水準は1.0%に引き上げるという内容です。実質的にレンジを0.5%から1.0%への引き上げであると言えますが、あくまでも債券市場に歪が生じることを避けるためとの日銀の主張です。同時公表された展望リポートでは23年度の消費者物価指数は2.5%に引き上げられたものの、24年度1.9%、25年度1.6%としており、この主張を裏付ける形になっています。
株式市場は、28日には日経平均株価が一時800円の下落となる混乱が生じましたが、国債利回りが比較的落ち着いていたこともあり、何も無かったかのように戻っています(むしろ上昇)。結果的には“お化けの正体”が表れたことで悪抜けになったと言えそうです。この悪抜けは為替市場にも生じているようです。今回の修正で日銀は当分の間は動かないと市場が認識することによって、金利差による円安が強く意識されそうです。
再び輸出関連など主力株の上昇機運が強まりそうです。しかしながら、新聞紙上では企業業績見通しの好転が伝えられておりますが、9週間前(5/26)と比較して7月28日現在の日経平均株価のコンセンサス予想EPSは、今期ベースで+2.4%、来期+0.4%、再来期+1.5%と上方への変化は僅かです。ここから2週間の決算発表が今後の鍵を握りそうです。
今週は、1日:米ISM製造業景況感指数(7月)・米雇用動態調査(6月)、2日:ADP雇用リポート、3日:米ISM非製造業景況感指数(7月)、4日:米雇用統計(7月)と米国の主要経済指標の発表が続きます。これら指標が大きく上下に振れない限りは、足もとの強含みの地合いが維持されそうです。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。