ここから先の円安は、日銀の金融政策修正観測を惹起させる
22日に英イングランド銀行は市場予想(0.25%)を上回る0.5%の政策金利の利上げを行いました。政策金利が5%に達するのは2008年以来です。しかし、英国の消費者物価指数(5月)は前年同月比+8.7%と高止まりしており、さらなる利上げが予想されます。また同日にはスイス国立銀行、ノルウェー中銀も政策金利を引き上げましたが、追加利上げの可能性が示唆されております。
パウエルFRB議長の議会証言(21日・下院、22日・上院)は、年内2回の利上げの可能性を示唆する内容であり、13-14日のFOMC後の記者会見とほぼ同じ内容でした。ただし、(欧州の利上げの影響があったのか)市場の受け止め方からはタカ派を演じているというような楽観論が後退したようでした。
23日発表のS&Pグローバルによる6月の購買担当者景気指数は、米国が総合で53.0(前月比▲1.3pt)、ユーロ圏が総合で50.3(同▲2.5pt)とともに低水準となりました。経済見通しが鈍化する中でインフレ率の高止まりによる金融引き締めの長期化への警戒からNYダウ工業株は週間で571ドル下落しました。
日本株も先週は週間で日経平均株価が924円と大きく下落しました。これまでの上昇ピッチが急であったことによる高値警戒感の台頭、中国経済停滞に対する懸念、欧米での利上げの動きと経済減速懸念に加えて、日銀の政策スタンスに対する修正観測が市場の一部に生じていることが影響していると考えられます。
23日発表の5月の消費者物価指数は生鮮食品を除く総合で前年同月比+3.2%と4月(+3.4%)からは低下したものの市場予想(+3.1%)は上回りました。政策効果(電気・都市ガス料金の抑制策及び全国旅行支援)が1.05%の押し下げ要因となっており、これが無ければ前年同月比+4.3%になっていたと考えられます。
26日に公表された日銀政策決定会合(6/15-16)の「主な意見」においては、物価の受け止め方に対して委員の間で見解の相違や、長短金利操作に関して早い段階で見直しを検討すべきとの意見もあったことが示されました。物価上昇率の高止まり、円安の進行、秋頃の衆院解散の可能性などから次回会合(7/27-28)にサプライズ的に金融政策が修正される可能性を見る向きもあるようです。
日本株は円安を好感する動きが後退しており、世界経済の減速と金融引き締め継続による調整局面がまだ持続すると考えます。
先週末(24日)にロシアの傭兵組織「ワグネル」による武装隆起によるモスクワに向けた進軍と停止・撤収という予想外の事態が生じました。今後のウクライナ情勢にどのような変化を齎すのか気になるところです。
今週は27日:コンファレンスボード消費者信頼感指数(6月)、26-28日:ECBフォーラムにおける中央銀行総裁の討論会(28日)が注目されます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。