円安が海外投資家の積極投資を促している可能性~植田総裁発言にはご用心
注目されたFOMC(13-14日)では、利上げを見送り、11会合ぶりの据え置きとなりました。しかし、ドットプロットにおいては23年末の政策金利の予想は前回(3月)の5.1%から5.6%へと0.5%引き上げられました(市場予想は0.25%の引き上げ)。しかし、市場ではタカ派に配慮したタカ派の演出という見方もあるようであり、その為、FOMC直後は株価を押し下げる要因にはなりませんでした。
13日発表の米消費者物価指数(5月)は、4月の前年同月比4.9%から4.0%へと大きく低下しました(ただし、コア指数は5.5%→5.3%の低下にとどまった)。15日発表の米小売売上高(5月)は市場予想の前月比+0.1%に対して+0.3%と強い内容でした。一方、同日発表の週間新規失業保険申請件数(6/4-10分)は市場予想(24.5万件)を上回る26.2万件でした。16日発表のミシガン大学消費者態度指数(6月)は5月の59.2から63.9と大きく上昇しました。このように発表される経済統計は強弱入り混じりやや混沌としています。ただ市場では深刻なリセッションは回避できると見方が強まっており、それに「FOMO(fear of missing out)」も加わって、株価は騰勢を維持していると考えます。
今週はパウエルFRB議長が下院金融サービス委員会(21日)、上院銀行委員会(22日)で議会証言を行います。16日にFRBが公表した金融政策報告書においては「(サービス価格について)インフレ圧力の緩和の兆しは見られない」としており、議長は金融緩和的な発言は控えられるだろうと考えます。
ECB理事会は15日に0.25%の政策金利の引き上げを行い4.00%とした。ラガルド総裁は次回(7/27)の理事会での引き上げも示唆しています。22日に英国、スイスの中央銀行で会合が予定されていますが、いずれも利上げが見込まれています。
16日の日銀金融政策決定会合では、現行の大規模な金融緩和策の維持が決定されました。その結果、対ドルでは142円台付近に、対ユーロでは155円台半ばまで円安が進行しました。かねてから指摘しているように趨勢的な円安進行にもかかわらず、15日の貿易統計(5月)で輸出は金額ベースで僅か+0.6%、数量指数では▲6.4%(8カ月連続マイナス)と芳しくありません。
現在の株価上昇に関しては、円安が外国人投資家の投資行動に働いている可能性もありそうです。円安によって企業業績にプラス効果があるということに加えて、安くなった日本を海外の資金が買い上げるという構造です。時期は未詳ですが、いずれ日銀は大規模金融緩和策を解除する方向にありますから、その時に円高に振れることを見越しているのかもしれません(海外投資家にとってはドル換算の資産が増える)。
こうした状況においては植田総裁の発言への注目が高まりそうです。
最近でも5月31日の国際コンファランスで「今回の高インフレ期を経て、人々の物価感などが変化し、従来のロー・フォー・ロング(長期的な低金利)の時代から変わってゆくという見方がある」と従来の物差しで目先の物価上昇を測ることに警戒感を示しています。
また、16日の記者会見でも(長短金利操作の修正に関して)「ある程度のサプライズはやむを得ない」と発言しています。軌道修正はまだ先の話と思い込んでいると足元を掬われるかもしれません。
前回も申し上げましたが、現状の企業業績見通しからは既に日本株は妥当水準の上限にほぼ達していると考えています。見通しが今後、上方修正されない限りは、株価上昇も頭打ちになると考えます。そうした環境では、出遅れ感の強い中小型成長株に資金が向かうことが期待できると考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。