米地銀の信用不安と債務上限問題が市場を揺らす
5月2-3日の米FOMCでは市場予想通り0.25%の利上げが行われました。声明文には「追加策がどの程度必要かを決定する際には、これまでの金融引き締めの累積的な効果や経済や物価に時間差で与える影響を考慮する」と示され、利上げ停止の可能性が示唆されました。ただし、パウエル議長は記者会見において追加利上げの可能性に含みを残しました。
米地銀の信用不安は1日にファースト・リパブリック・バンクをJPモルガン・チェースが買収することで収束したように一時的には見えました。しかし、パックウエスト・バンコープやウェスタン・アライアンス・バンコーポレーションに対する身売り説等の報道などによって地銀株が激しい下落に見舞われました。月曜(1日)から木曜(4日)までのダウ平均の下げ幅は924ドルにも達しています。しかし、5日には546ドルの幅で反発しました。これは、米国銀行協会(ABA)が銀行株の空売りについて捜査するよう米国証券取引委員会(SEC)に要請し、SECも不正を特定・告発することに注力すると表明したことに因ります。カラ売りの買戻しによる地銀株の反発に加えて、アップルの業績が(減益ではあったものの)市場予想よりも良かったことが市場に安堵感を齎したようです。
しかしながら、米地銀に対する不安は払拭されたとは言い難い状況です。CNBCニュースによればマンハッタンのオフィス空室率が記録的な水準に上昇しているとのことであり、商業用不動産やそれに融資を行っている銀行への懸念は今後も続きそうです。
5日発表の4月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比25.3万人増と市場予想(18万人増)を上回りました。一見、雇用は堅調なように見えますが、3月分が7.1万人、2月分が7.8万人それぞれ下方修正されており、実態面ではむしろ弱さが見えてきたと言えそうです。
8日にFRBが発表した銀行融資担当者調査によると1-3月の企業向け融資の厳しさを示す指数が新型コロナの影響が強い20年4-6月以来の高水準になりました。また、貸出需要の軟化も報告されています。米国の景気減速確率は一段と高まっています。
こうした中で、6月頭にも政府支払いが停止するとみられている債務上限問題が深刻な影を落としそうです。米上院で多数を占める共和党は歳出削減案を下す考えはなく、バイデン政権との隔たりは大きいようです。6月が近づくにつれてマーケットへの影響が顕在化すると予想されます。
日本国内はインバウンド需要回復や新型コロナの5類移行など心理面での改善は大きいようですが、欧米の景気減速の影響などがこれから顕在化することが予想されます。株式市場はまずは米国金融市場の混乱の影響に身構えなければならないと考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。