当局の救済姿勢に揺れる市場、今後は消費者マインド低下が焦点か
先週の金融市場は銀行に対する信用不安が高まっている中で、金融当局の支援姿勢に揺れました。19日にクレディ・スイス・グループの救済に向けてスイスの最大手銀行であるUBSが30億スイスフラン(約4,260億円)の買収を発表しました。しかし、ほぼ同時にスイス金融市場監督機構(FINMA)が、クレディ・スイスが発行する劣後債の一種である「AT1債」の減損を決定したことによって、大きな波紋が生じています。21日には米法律事務所がクレディ・スイスの株主が集団訴訟に踏み切ると発表しました。スイスの年金基金の連合組織エトス財団も「法的措置を含めたすべての選択肢を検討する」と述べています。また、「AT1債」の減損リスクへの認識からドイツ銀行など経営不安説のある他の銀行株が揺らいでいます。
21日にイエレン米財務長官が「銀行危機が悪化すれば預金をさらに保護する用意がある」と発言したのを市場は大きく好感しましたが、22日の上院公聴会において同氏が「銀行預金の全面的な保護や保証は検討も議論もしていない」と発言したことで市場は再び暗転しました。この下落を受けて翌日に「預金保護のために追加的な措置を講じる用意がある」とのイエレン氏の発言が伝わったことで市場はやや落ち着きを取り戻しています。当局も規制当局としての規律の維持と信用不安の間で揺れています。
21-22日の米FOMCでは市場予想通り0.25%の利上げが行われました。さらに、ターミナルレートが切り上げられるという市場の予想に反してSEP(Summary of Economic Projections=ドットチャート)では23年末の最終金利は、前回と同水準(5.1%)に据え置かれました。5月の次回会合での0.25%の利上げが最後となる見込みではありますが、今後の市場環境や経済状況によって変わってくる可能性も考えられます。
週明けの米株式市場では、米地銀ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズが破綻したシリコンバレーバンク(SVB)の買収で合意したことや、28日に予定されている上院銀行委員会の公聴会においてリャン米財務次官(国内金融担当)が、最近の銀行破綻を受けて講じた異例の措置を規制当局として繰り返し動員する用意があることを表明する、と伝わり小康状態にあります。
今週もまだ銀行の信用不安に市場は揺さぶられる可能性がありますが、次第に落ち着きを取り戻してゆくと考えます。しかしながら、銀行の融資姿勢の厳格化や、成長企業への投資が減衰する可能性などから消費者マインドは低下しており、一時的に株価は回復したとしても、今後は景気減速と企業業績の悪化を株式市場は織り込む展開も予想されると思います。
(これは憶測に過ぎませんが)他方で欧米の金融市場や経済環境が悪化することによって、ウクライナへの支援が継続困難に陥る可能性も考えられ、ロシア・ウクライナ間の停戦協議が進む可能性も考えられます。いろいろな局面で世界の不確実性が高まっており、決め打ちをすることなく、状況の変化に応じて対応してゆく必要が強まっています。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。