市場の楽観はFRB高官が牽制、経済指標悪化は株式市場にマイナスに
23日に公表されたFOMC議事録(11/1-2分)において、大多数の参加者が、近いうちに利上げペースを減速することが適切になる可能性が高い、と主張していたことが確認されました。それを受けて先週のNYダウ工業株は上昇しました。
しかしながら、週明けのNYダウは497ドルの下落となりました。その要因は3つ挙げられます。一つ目は、28日に暗号資産貸付業者の米ブロックファイが米連邦破産法11条を申請したことです。米大手暗号資産交換所のFTX破綻の余波がまだ続くことが懸念されています。
二つ目は、米金融当局高官が相次いでタカ派的発言を行ったことです。発言者はニューヨーク連銀ウィリアムズ総裁、セントルイス連銀のブラード総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁、クリーブランド連銀メスター総裁、ブレイナードFRB副議長など多くのメンバーです。セントルイス連銀のブラード総裁は「一段と積極的な利上げが必要となる可能性を金融市場が過小評価している」と手厳しいコメントをしています。これらはFOMC議事録公表を受けて市場が楽観に傾斜することへの強い牽制と考えられます。なお、30日にはパウエル議長の講演が予定されておりますが、厳しい内容が想像されます。
三つ目は、中国の新型コロナ感染再拡大に伴う隔離など厳格な対策とそれに対する国民の今までにない強い抗議活動です。中国の政治体制や経済情勢へのリスクの上昇として認識されました。
今週は米国の主要経済統計の発表が続きます。29日:コンファレンスボード消費者信頼感指数(11月)、30日:米雇用動態調査(JOLTS・10月分)、12月1日:ISM製造業景気指数(11月)、2日:米雇用統計(11月)。弱い経済指標が出ることは利上げの減速期待とリセッション懸念という二律背反する反応が存在しますが、FRB高官によって楽観には牽制が働いていることから株式市場へのプラス効果は限定的と考えられます。むしろ、リセッション懸念が意識されやすく、下押し圧力の強い相場展開を予想します。
また、12月4日にはOPECプラスの会合が予定されていますが、大幅な供給削減を検討する見通しとの報道も出ており、削減幅によってはこちらも株式市場の重荷になりそうです。
日本株も全般的には上値の重い展開が予想されます。ただし、グロース市場の好業績銘柄には米利上げ減速によるバリュエーション改善期待が働きやすく、市場全体が厳しい中でも比較的恩恵を得やすいと考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。