投資は人生観を投影する
投資とは、何に対して、どういう視座で、何を基準におこなうのか、という自己表現、あるいは自己実現の場でもあると考えます。
他人に与えられた情報にのみ依存して無自覚に資金を投下することを投資と呼べるでしょうか?
金融商品あるいは投資対象のリスクについて十分に検討する必要性に関しては喧伝されますが、リスクは投資対象の側にだけ存在するのでしょうか?
投資を行い主体であるこちら側にこそリスクが存在する可能性もあります。知識・経験不足はもちろんのこと、感性の鈍さ、時間の不足、冷静さを欠いた熱情あるいは恐怖。まず精査すべきはこちら側にあるかもしれません。
世界情勢や経済環境、社会の在り方ならびに人々の考え方。世の中は流転しています。従来の方法や尺度が必ずしも有効性を発揮するとは限りません。株式投資に関してもPER・PBRがどうしたとか、財務内容がどうしたとか、そうした単純な要素では株価の評価ができない時代になっています。
モノから知識へと価値創造の源泉が移行していることも無視できません。社会・政治の在り方、国際関係、新しいテクノロジーなど未来を思い描く、想像力が求められます。
投資対象の発掘に際して一番大切なことは感じる力だと思います。スクリーニングも有効な銘柄発掘な手法ではありますが、単純に過去の売上高成長率や財務分析、株価バリュエーションを行っても本当に長期的に有望な成長企業は見出せません。
ビジネスモデルや新しいテクノロジー、これまで存在しなかったマーケット、経営者の持つ情熱・人を惹きつける魅力・人間性など、対象に対して自らの心が動かせるかどうかが重要です。もちろん、そのトキメキが正しいのかどうかは精査する必要はありますが。
シンクロしましょう。その企業の経営者、従業員、製品・サービスを利用する顧客、取引先、その企業にかかわるあらゆる人たちを想像しましょう。そこに共感は覚えられますか?
私が成長企業に特化するのは、未来が見たいからです。新しい市場、新しいテクノロジー、新しいビジネスモデル、新しい組織形態とそこで働く人たちの人生。私は知りたいのです。この先の世界がどこに向かってゆくのかを。既存の産業や企業を見ているだけでは自分自身が時代に取り残されているような不安を感じませんか?
バリュー投資の方が、グロース投資よりも長期的に高いパフォーマンスを得られるという実証研究があります。それは間違ってはいないと思います。しかし、それは数100銘柄に投資した結果です。数100銘柄に投資する投資信託と同じ結果が、個人の投資にも当てはまるとは限りません。あなたは数100銘柄に投資をするのですか?
投資はその手法や対象が投資家自身の人間性を表象するものと考えます。それだけに、投資家によって“良い会社”の基準は変わります。人生観によっても違いますし、その会社との関わりによっても変わります。だから何が良い会社であるのかは人それぞれです。
まずは、何が良い会社であるのかを皆さんがご自身で定義をしてください。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。