会社を見る目を養う~ベルレーティング法の活用と実践

2016/08/01

・この5年で、19社の小型企業のアナリストレポートを書いてきた。19社というと少ないようにみえるが、ベーシックレポートを書いて、それを四半期毎にフルリバイス(全面修正)するので、結構時間がかかる。

・短いフォローアップレポートというのはない。表紙に1ページの要約はついているが、毎回20~30ページのフルサイズである。その会社をまだ知らない、一から一通り知りたいという個人投資家向けに書いている。既に会社のことをよく分かっている人は、その会社のホームページにいけば、資料はいろいろある。

・会社説明会でのトップマネジメントのビデオが、いつでも見られるようになっている会社も多い。それを見ればフォーローアップができる。その前段階として、会社全体を投資家目線で知りたいという時に役立つようなアナリストレポートを書く、というのがベルレポートの主旨である。

・会社に対して、企業レーティングをしている。A、B、C、Dという4段階で評価する。これはアナリストとしての筆者の評価であるが、この評価方式のミソは、個人投資家が自分で同じように手軽にできるという点にある。

・プロのアナリストの判断といっても、1つの意見にすぎない。個々の投資家は、安易にプロを信用するのではなく、まず自分で判断して会社を見る目を養っていくことが重要である。個人投資家説明会に行って、社長やIRのトップマネジメントの話を聴いて、自分で採点してみることが、経験としての蓄積効果を生む。

・小型企業の場合は、会社説明会で社長の話を直接聴くことができる。まずは3つの視点から、そのプレゼン(話の内容)を評価する。①経営力が優れているか。話を聴いて、十分優れていると思えば3点、良好だが努力を要すると思えば2点、かなり改善を要すると思えば1点を付ける。

・②成長力が優れているか。十分な成長力が見込めると思えば3点、成長機会を有するが努力を要するならば2点、成長力の確保にはかなりの改善を要するとみれば1点を付ける。

・③リスクは十分克服できるか。業績が大きく下方修正されるような下振れの可能性が少ないとみれば3点、下振れしても小幅に止めることができるならば2点、大きく下振れする可能性が相当あるならば1点とする。

・この3つの軸、即ち、① マネジメント力、② 成長力、③ リスクマネジメント力 から評点する。3点+3点+3点ならば合計9点なので、10をかけて90点とみる。1+1+1ならば3なので30点。そうすると、3軸の組み合わせによって、30点、40点、50点、60点、70点、80点、90点となる。もし評価ができなかったら、それはゼロ点なので、評価は難しいと判断すればよい。

・まずはいくつかの会社の話を聴いて、評点してみる。そうすると、何を聴いても90点(3+3+3)、何を聴いても30点(1+1+1)、あるいは常に60点(2+2+2)という結果が出てくることもある。この時、1)自分はなぜどの会社の話を聴いても素晴らしいとなるか、2)どれも大したことはないとなるのか、3)あるいはどれもまあまあになるのか、を考えてみる。

・また、会社によって評点が異なってきたら、1)自分は今回その会社のどこを高く評価して、2)どこが十分理解できずに低評価にしたかを考えてみる。自分の評価であるから、大胆でかまわない。10社、20社とやってみると、だんだんこなれてくる。さらに、同じ会社でも、次の機会に改めて評価してみる。その時には、前回の評点に拘らず、新たな気持ちでやってみる。

・そうすると、自分なりのイメージが固まってこよう。筆者のレポートでは、90点、80点をA、70点、60点、50点をB、40点、30点をCとしている。Dは会社が相当厳しいという評価である。

・これまでレポートを書いた19社をみると、Aが6社、Bが8社、Cが5社である。BからAに上がった会社もあれば、BからCに下がった会社もある。これからはCからBに上がる会社も出てこよう。

・因みに、Aの会社はPCデポ(コード7618)、東祥(8920)、コシダカHD(2157)、フロイント産業(6312)、ブロンコビリー(3091)、日進工具(6157)であった。

・19社の株価パフォーマンスをみると、19社のレポートを1回目に発行した時に100万円で等金額投資をしたとすると、この5年でスタート時点は異なっているが、19社の1900万円が6月末で5812万円になっている。Aが最も値上がりしており、Cが最も動いていない。

・これらの19社は、上がる株として選んだわけではない。その会社の社長や事業に興味がもて、今後どうなるかを分析したいと思って取り上げた。いずれも素質はあるので、CからAに評価が上がる可能性がある。このアナリストレポートが、会社を見る目を養うに当たってのサポート材料になればよいと考えている。

・大事なことは、1)まずは自分でやってみることである。誰か人が言うことを丸のみするのではなく、自分の目と耳で判断することが重要である。2)次に、いい会社かどうかという点と、株価が割安か割高かという判断を峻別することである。筆者が今の会社(ベルトーケン)を始めるに当たって、200社以上の会社を調べてレーティングを行い、100社くらいの会社について株価判断を実践して、データをとった。

・この時の企業レーティングでは、Aは全体の10%、Bが75%、Cが15%という構成であった。また、株価レーティングでは、Buyが10%、Sellが10%、Holdが80%であった。当然ながら、Bの評価の中に割安な株はあるので、Buyとなるものがある。同じくBの中で、割高でSellとなるものがある。Aでも株価が十分評価されていればHoldとなる。

・しかし、少し長期でみると、Aの評価の株価パフォーマンスはよく、Cの株価パフォーマンスはさえない。株価が大きく動くのは、BからAになる時である。その点では、それなりに素質があると思った会社は、継続的にみていく必要があろう。

・大型銘柄については、3つの軸ではなく、もう1つの軸を加えている。第4の軸は会社のサステナビリティ(持続性)に関するESG(環境・社会・統治)の評価である。この軸の評価をいかに実践していくかに、今注目が集まっている。

・4つの軸をベースに、筆者が6月の株主総会に参加した大企業でみると、120点満点〔(3+3+3+3)×10〕に対して、NRI(野村総合研究所) 80点、日立製作所70点、リクシル60点であった。因みに、先ほどの小型企業の東祥に対して、同じような評価を行うと100点である。つまり、ここで挙げた大企業より優れていると評価する。今後の株価上昇余地もはるかに大きいとみている。

・このように評価軸を分けてみると、自らの評価の視点をはっきりと定めることができる。さらに評価シートを精緻に作ることも可能である。こうした定性的な評価方式を実践してみることは、投資の腕を磨くうえで大いに役立つであろう。その上で、通常のPER、PBR、配当利回り、DCFによる株価評価などを行えば、投資判断の精度は大きく向上するはずである。

 

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