クロスバリューイノベーション~パナソニックの成長戦略

2015/12/01

・11月の世界経営者会議でパナソニックの津賀一宏社長の話を聴いた。現在59歳、研究開発畑の出身で、AVの分野が長かった。苦境に陥ったパナソニックをどのように再生させたのか。また再生途上にあるという認識なので、厳しい表情でのプレゼンであった。

・テーマは、“未来に向けた「お役立ち」への挑戦”であった。「お役立ち」は英語で何というのか。英語のスクリーンを見たら、‘Contribution’と訳されていた。パナソニックは2018年に、創業100周年を迎える。津賀社長は、「社会に貢献(Contribution)するから利益がついてくる。これがお役立ちである。」と、その意味を語った。

・「お役立ち」のできる会社にするには、1)シンプルにみえる化すること、2)意思決定のスピードを上げることを原則とし、それを実践した。過去50年を振り返ってみると、後半の20年は売上が停滞、利益も低迷した。期待したデジタルTV、ケータイが落ち込み、松下電工や三洋電機のM&Aも効果を出せなかった。

・2012年3月期に7700億円の赤字を出し、社長に就任後、TVを改革すれば何とかなると思ったが、①会社の規模が大きすぎる、②次の商品がみえない、③キャッシュが不足している、という危機に直面して、大改革を実行する腹をくくった。

・シンプルでは、30人の常務会を、意思決定の重要機能として12人にした。スピードでは、本社の人員7000人を、130人の戦略本社にした。2年連続で7000億円を超える赤字を出し、無配になっても、パナソニックは大きい会社、いい会社という雰囲気が蔓延していた。そこで、当社は普通の会社でない、負け組であると公表した。

・アナリストからは、後ろ向きの構造改革だけで、成長戦略はないのかと追求されたという。そこで、社長に就任して9カ月後の2013年3月に中期経営計画を発表し、①普通の会社になる、②黒字化し復配する、③3年で営業利益3500億円、売上高営業利益率5%以上を達成する、という目標に掲げた。

・そのためにあらゆることをやると決めた。プラズマディスプレイ、ケータイから撤退した。社員の賃金カットも実施した。2012年3月期に税引利益段階で-7722億円の赤字、2013年3月期も-7543億円の赤字の後、2014年3月期から黒字化し、2015年3月期には営業利益で3819億円を達成した。

・なぜ2年で復活できたのか。津賀社長は、利益を最優先したからであると断言した。つまり、お役立ちの効果が出てきた。では、次の成長戦略はどうするのか。これには「逆算」と「掛け算」で立ち向かうことにした。まず2013年1月のCES(米国のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、B to Cではなく、B to Bの会社にシフトすると宣言した。コンシューマーではなく、事業会社向けのビジネスをコアにすると決めた。自動車、住宅、社会インフラ、航空機、ヘルスケアなどの事業会社との取引を拡大する。

・産業分野ごとの「逆算」で事業領域を定めた。自動車では電子化や電動化で、車1台当たり今までの10倍の当社製品が使われる可能性がある。住宅ではエネルギー革命で、住宅1棟当り2倍の当社製品が利用される可能性がある。このほかにも、B to Bソリューション、デバイス、家電で同じように定めた。

・そうすると、2014年度から4年後の2018年度(創業100周年)には、7.7兆円の売上高を10兆円に持っていくことができるはずである。これをトップダウンで決めた。つまり、成長の伸び代があるというメッセージを明確に発した。

・では、競争力の源泉はどのように創り出すのか。4カンパニー、5事業部、37の事業の専門性を「掛け算」で強みとし、お役立ちに活かすという戦略をとった。例えば、次世代の自動車のコックピットで、ヘッドアップディスプレイ、電動ミラーなど、車載エレクトロニクスとデジタルAVを組み合わせて、新しい製品やサービスを次々と生み出していく。

・地域にも伸び代がある。5事業分野×3地域(日本、欧米、戦略地域)で、グローバル経営の進化を現地主導で進める。例えば、航空機の機内エンターテインメントは、米国拠点を軸に展開していく。

・津賀社長は、自らの座右の銘を「素直な心で、衆知を集めて、未知なる未来へ挑戦する」と定めた。“素直な心”は松下幸之助の言葉であり、“未知なる未来”はR&D出身の自分の信条であるという。

・パナソニックは本当に変わったのか。この問いに対して、まだ改革途上であるが、少なくとも良い子ぶるのはやめたという。当時は、役員であっても危機感の無さが蔓延していた。これが許し難かったという発言が印象に残った。

・37の事業、5つの事業部、4つのカンパニーの連携をいかに深めるか。毎週4カンパニーのトップがこれを議論して、B to Bへのシフトと競争力の強化に取り組んでいる。これがパナソニックの新しいビジネスモデル、クロスバリューイノベーション(Cross-Value Innovation)である。

・パナソニックにとって、B to Cでは結局、顧客が見えなくなった。そこで、顧客がクリアに見えるB to Bに絞った。しかも、①利益が得られる領域でしか仕事をしない、②加えて成長性を求めていく、と定めた。

・それをトップダウンでリードし、「お役立ち」というメッセージでカルチャーの改革と定着を図っている。松下幸之助の精神に戻るだけではなく、その魂を新しいビジネスモデルに刷り込むことができるかどうか。ビジネスモデルの次なる戦略展開が大いに楽しみである。

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