革めて株価水準を考える
・中国リスクで株が急落した。中国経済の失速、元の切り下げ、国際商品市況の下落などが実態悪として顕在化するのではないかという不安が広がったことによる。6月上旬までに、中国株ファンドを整理し、日本株ファンドのウエイトを下げた投資家もいた。予兆はいろいろ出ていたので、次の投資に備えてキャッシュ比率を高めていたのであろう。では、ここからどう見るか。
・相場の流れは変わったのか。日経平均株価がすぐに3万円になると予測しているのではないが、そのための条件について検討してみたい。野村證券で投資家向けのセミナーをいくつか聞いた。海外政治情勢、株式投資、ハイイールド債投資である。この局面で、株か債券かといえば、株式投資に妙味があろう。
・まずは中国向け輸出比率の高い国への影響が懸念された。オーストラリア、台湾、韓国、チリ、ブラジル、日本、ニュージーランド、南アなどである。日本では、中国からのインバウンドの爆買い減少もありうる。ブームの後は必ず調整が来るので覚悟しておく必要はあろう。
・しかし、中国は国家資本主義である。いざとなったら国のコントロールが強烈に働く。このままコントロール不能になるとも思えない。今回の株価急落に対して、国の介入が入った。市場がコントロールされるところまで介入が続くとみてよい。自由なマーケットではないが、中国から世界株安の連鎖が拡大するという可能性は低い。
・確かに、政府による投資主導の拡大成長が長期的に続くはずがないともいえる。過剰設備投資が不良資産になってしまう。民間消費主導に移行せざるをえないが、その時には規制緩和や自由化が問われるので、容易でないのも事実であろう。それでも当面は、経済に対するコントロール余地は有しているので、引き続き手を打ってこよう。中国発世界大不況というのは想定しにくい。リスク要因ではあるが、いずれ落ち着きを取り戻して、株式市場は戻して来よう。
・一方、米国は利上げをしたくなるくらい景気がよくなりつつあり、物価も少しずつ上がりそうとみられている。しかし、いくつか課題がある。1)景気がよさそうなのは米国くらいで、中国は減速しつつあり、欧州はまだまだである、2)パッとしない世界経済の中で国際商品市況は下がっており、資源国も元気がない、3)米国の物価もインフレが心配という水準ではない。とすると、これまでと同じように、利上げを急ぐ必要はない。12月に利上げがあるとしても、その後はゆっくり、利上げの上限も過去に比べてかなり低そうである。米国以外の国々は金融緩和が必要である。そうなるとここから債券価格が下がる心配は相対的に少なくなる。
・こうした環境で、世界の低格付債(ハイイールド債)には引き続き魅力があろう。格付けが低いとクレジットリスクを反映して、債券の利回りが高くなる。しかし、すぐに倒産(ディフォルト)するわけでない。むしろ、その確率は低い。金融緩和が続き、利上げができそうな米国でも、そのスピードと幅はゆっくりかつ小さいという読みである。
・ハイイールド債は、利回りが高い。為替リスクはあるにしても妙味がある。1)欧州は低成長、低インフレ、2)米国はエネルギー関連の状況が悪いが、すでにかなり織り込み済み、3)中国の元建ては格下げになるとしても、米ドル建ての信用力は相対的に高い、という状況である。ディフォルトの可能性をよくみていく必要はあるが、利回りがほしい投資家は大勢いる。分散を考えると、米国ハイイールド債、欧州ハイイールド債、アジアハイイールド債など、それぞれ投資チャンスがありそうだ。
・ハイイールド債は株との連動が高いので、株価が下がる局面では注意を要する。今回の急落局面でも影響を受け、イールドスプレッドは広がった。ベースが低格付けの企業なので、企業業績を反映する株式市場との関係も相対的に強い。米国の利上げがどのような影響をもたらすか。社債の値下りで混乱を招くか、ドル高の進行で途上国の通貨安を加速するか。FRBは、ゆっくり小幅を基本として、ネガティブなマーケットインパクトを避けるように行動しよう。投資家はそのように期待する。とすると、金融緩和の中で、株式市場にネガティブになる必要はない。
・日本は、円安、民間設備投資、爆買いがリード役となっている。中国の景況悪化がマイナスではあるが、それによって流れが一変するほどではない。企業業績は向上し、ボーナスも増えようとしている。配当の増大もプラスに働こう。追加の景気対策も必要に応じて打たれよう。
・日本のコアCPIは、エネルギー価格の低下によって、上昇が穏やかになっている。日銀の目標とする2%にはとどかないが、脱デフレという状況は何とか確保することができよう。為替は120~125円/ドルの間で上下しながら、方向としてはやや円安へ向かおう。
・人手不足を反映して、生産を高めるような設備投資は製造業でも非製造業でも続こう。現在、日本の大企業(ラッセル野村除く金融)のROIC(投下資本利益率、営業利益(1-税率)/投下資本(純資産+有利子負債)は4~5%の水準にある。リーマンショック前は6%近かったので、もう一段上げていく必要がある。企業業績は主要大企業(ラッセル野村除く金融)で14年度+7.0%に対して15年度+14.6%、16年度+9.4%が予測されている(野村證券エクイティ・リサーチ部)。この業績予想はやや下方修正されようが、減益に陥るほどではない。
・2016年度のROEは9.8%前後まで上昇するとしても、過去のピークである07年度の10.4%にはまだ届かない。グローバルに比較すると、日本のROE(MSCI-JAPANベース)10%に対して、欧州12%、アジア(日本を除く)12%、米国16%である。この日本で中期的に収益性を改善し、売上高利益率を上げることによって、ドイツやアジア企業並みのROE12%になれば、PBRが1.4倍から2倍に上昇することが期待できよう。
・そうすれば、日経平均株価で3万円もみえてくる。正にROICやROEを軸にした稼ぐ力の向上こそが問われている。その可能性を高めるために、企業と投資家の対話(エンゲージメント)による上場企業全体の収益力の底上げに注目したい。