高付加価値化をいかに図るか

2023/11/01 <>

・9月に日本価値創造EMR学会の基調講演とパネルディスカッションを視聴した。大阪大学の延岡健太郎教授の講演は、「高付加価値経営の論理」がテーマであった。「キーエンス」に関する延岡教授の著書も読んでいたので、興味深かった。

・キーエンスについては上場の時から知っていた。創業者がユニークなので、通常のアナリストが会話をしようとしても全く歯が立たなかった。論理がかみ合わないので、対話が成り立たないという印象であった。

・昔も今も価格戦略は重要である。価格はコストの積み上げで決めるのか。同業他社のマーケット価格をみながら決めるのか。長年染みついている常識に基づいて、しがらみに引っ張られているのか。

・そんなことはないはずであるが、デフレが続き、安くていいものを大量に提供すれば、利益についてくるはずであると考えてきたようにみえる。

・付加価値とは、まさに自社内で作り出した価値を金額で測ったものである。外部から調達したコストは除いて、社内で生み出した価値を合計していく。オムロンの山田会長は、粗利が最も重要だ、といつも強調していた。確かに分かり易い。

・通常、付加価値=営業利益+減価償却+人件費で計算される。外部流出しないという点ではのれんの償却も入ってこよう。人件費は給料として支払うので外部流出するが、価値は社員が創り出している。よって、単なる費用ではなく人的資本のコストとしてみることができる。

・では、R&Dはどうであろうか。将来の価値創造のための先行投資である。R&Dの中身は何であろうか。研究開発に従事する人材の人件費であれば、付加価値に入れることができる。R&Dのために消耗する原材料であれば、それは費用である。

・外部委託費の中の人件費はどうだろうか。社内で作業をこなすのと、外部に委託するのと、どちらが効率的かという点で、付加価値への取り組み方も変わってくる。

・パート・アルバイトはどうか。単純作業の‘外出し’なのか。実は、付加価値を作り出す上で、コアの人的資本となっていないか。人手不足時代に入って、今までのように便利な人件費として使えなくなっているとすれば、考え直す必要があろう。AI、ロボットで代替できるコトと、すぐにはできないコトが峻別されよう。

・つまり、付加価値について、現状のP/Lから再定義してみることが重要である。その上で、自社が提供している製品・サービスの付加価値について、改めて考えてみたい。

・延岡教授は、付加価値(売価-原材料費)は機能的価値+意味的価値で構成されると定義する。機能的価値は、カタログ価値やスペック(仕様)価値で、製品やサービスの機能にフォーカスする。通常はここを重視する。

・意味的価値は、顧客が見い出す使用価値、経験価値、ソリューション価値である。「~ができる」という機能に、「~が生きる」という顧客にとっての意味が、全体の価値を統合される。

・この意味的価値が顧客に訴求できれば、顧客は価格が高くても喜んで購入してくれよう。その製品・サービスを、イノベーション(新しい仕組み革新)によって低コストで創造できれば、高付加価値化が一気に進む。

・そういう経営を日本の多くの企業はやっているだろうか。キーエンスは創業以来、それを実践している。キーエンスの売上高粗利率は82%であり、売上高営業利益率は54%である。

・では、どんな価格を設定すべきなのであろうか。意味的価値を徹底的に追求して、これを高めなくては話にならない。そのための仕組みが問われる。次に、その価値にいくらの値段をつけるのか。

・延岡教授は、ハーバードの「価格戦略論」(ヘルマン・サイモン他著)から事例を引用した。自社のコストが50ドルで、顧客の利益を1000ドルに拡大できるとして、いくらの価格をつけるか。米国の経営者は500ドル、欧州の経営者は600ドル、日本の経営者は100ドルであるという。

・1つの象徴的比喩であろうが、さもありなんと思ってしまう。顧客に圧倒的価値を提供するのであるから、日本は素晴らしい。でも、顧客の価値がしっかり分かっていないとすれば、それは大問題である。分かっていれば、バリューチェーンの中で、応分にシェアしようということになるはずである。

・かつてある会社を創業した方が、ユニークな製法を開発した。販売に入ったら安いといわれた。それで価格を2倍にした。それでも売れた。世界にも通用した。こうした例はいくつもあろう。

・延岡教授は、高付加価値化のためのSEDAモデルを提案している。①Science(サイエンス)、②Engineering(エンジニアリング)、③Design(デザイン)、④Art(アート)、を2つの軸に分けて、4つの場面としてみていく。

・顧客価値の革新性の軸と、顧客価値の暗黙性の軸である。意味的な価値を顕在化させるべく革新的な取り組みをいかに行うか。

・それによって、サイエンスの知見をエンジニアリングによって、マスカスタマイゼーションし、それをデザイン思考で付加価値を高め、最後はアートのレベルまでももっていく。そうすると、他が真似のできない価値を提供できるようになる。

・キーエンスには、中期計画がない。かつて、米国のスリーエムについて学んだ時、ビジネスモデルをきちんと回していけば、それがそのまま新しい価値創造に結び付いていく。キーエンスもその仕組みを内在化している。

・日本企業の中期計画の大半は未達に終わっている。方向性を固めるという点では意味があるとしても、実現しない計画では不甲斐ない。「高付加価値経営」の本質はどこにあるのか。どの会社にも問うてみたい。その上で、真に挑戦している企業、新たに体現している企業に大いに投資したい。

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