これからの価値創造~日立と伊藤忠を比較してみると

2021/03/01

・日本企業のよさはどこにあるのか。日立製作所(時価総額4.9兆円)と伊藤忠商事(5.2兆円)を比較してみた。

・なぜ日立と伊藤忠なのか。2020年のWICIジャパンの統合報告書アウォードで、伊藤忠と日立がゴールド(優秀企業賞)に選ばれた。因みに、シルバー(優良企業賞)は、味の素、NTTデータ、三菱ケミカルHD、ブロンズ(特別企業賞)は、カゴメ、住友金属鉱山、東京応化工業、日本ユニシスであった。

・伊藤忠は、過去8回のうち6回、日立は2回目の表彰であった。そこで、この2社を比較して、どちらが企業価値創造企業として優れているかを検討してみたい。

・どちらの統合報告書がより良いかという意味ではない。表彰は統合報告書の評価であったが、ここでは報告書も1つの材料として、より総合的にみる。但し、筆者の主観的な見方なので、その点を踏まえていただきたい。

・企業価値評価の視点としては、3つの観点を重視する。第1は、企業価値を社会性、市場性、革新性の3つからみていく。第2は、価値創造の仕組みであるビジネスモデル(BM)について、現在のBM(BM1)と将来のBM(BM2)に分けて、将来への道筋をみていく。

・第3は、BMの評価を、①経営力、②成長力、③業績変動、④持続力からみていく。成長力はイノベーション、業績変動はリスクマネジメント、持続力ではESGを重視する。

・財務パフォーマンスでは、PBR=ROE×PERという関係式をベースにみていく。2月の時点で、伊藤忠は1.50倍=13.0%×11.5倍であり、日立は1.65倍=12.6%×13.1倍であった。

・因みに、三井物産は0.80倍=6.5%×12.3倍、ソニーは、2.80倍=20.3%×13.8倍であった。大手商社の中では、伊藤忠のみがPBRで1.0倍を上回っており、日立はROEでソニーより低い。

・全く異なる2社をどのように比較するのか。BMを4つの軸で評価するのであるが。①マネジメント、②イノベーション、③リスクマネジメント、④ESG、という軸について各々3点、2点、1点でレーティングしていく。優れている、普通である、今一歩である、という3段階でみる。主観点なので、3つに分けるくらいが丁度よいと考えている。満点なら12点、(3×4)、最低なら4点(1×4)という具合である。

・日立のよさはどこにあるのか。創業110年、IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5つのセクターで、顧客の社会価値、環境価値、経済価値向上に貢献していく。コングロマリットながら、方針が明確である。

・3つの価値向上を同時に図るが、とりわけ、社会イノベーションを生み出す領域を、上記の5つに定めた。日立の技術開発やノウハウが活かせる分野に特化し、人々のQOLの向上と顧客価値の向上に貢献する。その実践を、Lumada(ルマーダ、AIシステム)を軸に展開する。

・事業ポートフォリオの見直しでは、日立ハイテクは100%子会社化し、日立化成はグループ外に売却した。

・小平浪平の創業の精神とビジョンが明確で、事業に活かされている。「和・誠・開拓者精神」で。社会課題に対してイノベーションで応える。実際、社会イノベーション事業が進化し、具体化している。

・社会イノベーションのBMは、IT×OT×プロダクトによるソリューションを、プラットフォーム化していく。ルマーダのユースケースは1000件を超えており、この7年で骨格を作り上げてきた。

・社会イノベーションという一般名詞を日立の固有名詞にしつつある。社会価値は、例えば、スマートシティの実現というテーマで統合化されていく。環境価値はあえて独立させ、CO2、水、資源リサイクルをビジネスとして展開する。

・河村CFOは、三菱商事出身で、2015年に日立に移り、2018年CSOとして、中期計画の立案をリードし、2020年4月にCFOとなった。リスクマネジメントにおいても抜かりがない。

・ガバナンスでは、取締役13名中10名が社外(外人6名、女性2名)で、取締役会議長は、社外取の望月氏が務めている。

・課題としては、ABBから買収したパワーグリッド事業がうまく定着するか。ROIC10%以上、売上高営業利益率10%以上に向けて前進しつつあるが、達成できるか。それを担うイノベーションにさらに広がりが出るかが注目される。

・日立のよさは、1)創業の精神をカルチャーにしていること、2)あるべき姿を本気で追求していること、3)人材の活用がグローバルであること、などにあろう。

・伊藤忠商事によさはどこにあるのか。伊藤忠兵衛(初代、2代目)の心得が、160年間、近江商人の「三方よし」として生きている。売り手によし、買い手によし、世間によしで、経済的価値と社会的価値の双方を追求する。「三方よし」の一般語を2020年4月に自社の経営理念に据えた。

・企業価値=創出価値/(資本コスト-成長率)と定義し、財務的にシンプルなモデルをベースに、非財務のBMを実践する。

・企業価値は、価値創造の資本の総和であるとして、確実な成果である創出価値を、資本コスト(持続性を支える仕組みのKPI)と成長率(持続的成長)で割り戻す。BMの価値創造を連鎖的に自律させようとしている。これを三方よしの独自モデルと位置付けた。

・繊維から始まったビジネスを非繊維の強化、さらに非資源の強化として、他の商社とは違った生活消費関連を強化してきた。これが収益性の向上に結び付いており、業界トップのポジションを得ている。

・「稼ぐ・削る・防ぐ」を実践しつつ、言ったことはやるコミットメント経営に拘り、コロナ禍にあって低重心経営を展開する。ファミリーマートを100%子会社化し、第8カンパニーの設立をベースに、新たなDMP(データ マネジメント プラットフォーム)の形成を目指している。

・危機はチャンスでもあるとして、モビリティ、再生エネルギー、リテールに投資している。リスクマネジメントにおいても、PEST分析(政治、経済、社会、技術)を独自に実践している。

・ガバナンスは、10名の取締役のうち4名が社外であるが、このうち望月氏は日立の社外取締役でもある。親子上場については、明確な指針を示して、独立社外取締役を重視し、自律的経営を認めている。

・海外投資案件では、CITIC(中信グループ)への大型出資の成果が課題であり、BMのもう一段のイノベーションも問われるところである。

・この2社を比較すると、日立は、1)ガバナンスに優れて実効性は高いが、2)イノベーションは今一歩で、今後リターンがさらに高まってくることを期待したい、3)ABBなどの海外案件のリスクマネジメントが気になるところである。

・伊藤忠は、1)岡藤会長(CEU)の後継者については、マネジメントスタイルがカルチャーとして根付いているので、さほど心配はない、2)CFOをリード役に市場との対話に基づいてBMの変革を進めており、リスクマネジメントが資本コストの低下にも効いている。3)イノベーションについてはもう一段の攻めが必要であり、CITICへの投資回収に注意したい。

・こうした点を踏まえると、企業価値創造企業としてどちらも優れているが、伊藤忠10点に対して日立9点と、伊藤忠の方が一歩リードしていると評価する。

・これは筆者の現時点における主観的評価であり、会社はどんどん変化していくので、それにつれて見直していけばよい。投資家は、自らの視点をベースに、企業価値を見抜く力を一層磨いてほしい。その成果に期待したい。

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