社外取締役で会社は変わるか~5つの心得
・社外取締役を充実したら会社は変わるのか。ステークホルダーにとってよい会社になるのか。常識的に言えば、会社を変えるのは社長で、社長が最も重要であると誰でも思う。社外取締役をこの5年充実させてきたが、上場企業に変化は出ているか。大きく変化した会社がある一方で、形を整えても中身はさほど変わらずという会社も多い。
・7月に経産省から「社外取締役の在り方に関する実務指針」(社外取締役ガイドライン)が公表された。企業価値の向上を図るコーポレード・ガバナンスを実行するには、どうしたらよいのか。近年、上場企業の社外取締役は急速に増えている。その基本的役割を再認識し、役割の実効性を高めるための手引書として発行された。
・社外取締役7062人(東証1部、2部)にアンケートを出し、1350人(19.1%)から回答を得た。また、1部・2部の2633社にアンケートし、868社(33.0%)からの回答も得た。これらを踏まえて識者による議論をまとめ、提言とした。
・このガイドラインでは、「社外取締役としての心得」を5つあげている。
1)最も重要な役割は経営の監督である
2)社内のしがらみに捉われない立場で持続的成長戦略を考える
3)独立した立場で遠慮せずに発言・行動する
4)適度な緊張感・距離感を保ちつつコミュニケーションを図り信頼関係を築く
5)経営陣・支配株主との利益相反を監督する
・改めて5つの心得にまとめた真意はどこにあるのか。これらが十分実行されていない懸念があるのか。もっと企業価値向上に結び付くようにしっかり実行してほしいのか。いくつかの上場会社の社外取締役を務めている立場から3つの論点と取り上げる。次に、投資家の立場に立った時、何を重視していくべきという点についても3点ほど述べてみたい。
・第1に、社外取締役として最も重要なことは「経営の監督」、その通りであろう。では監督とは何か。スポーツの監督とはかなり異なる。
・社長・CEOを筆頭に、執行担当のマネジメントが持続的な企業価値向上に向けて、1)戦略を練り、2)必要な体制を作り、3)それを適切なリスクをとって実行しているか、について、①その妥当性を確認し、②実効性を評価し、③必要ならマネジメントを変更していくこと、が監督の役割である。
・これは大変である。中長期的な大局観をベースに、経営の実態を十分把握していなければ、監督はできない。別の企業で経営のトップを務めた社外取締役は、業務執行の中身につい口を出したくなる。
・会計士や弁護士であれば、先行きが不確実であると言って、ブレーキばかりかけるかもしれない。リスクテイクのアクセルをサポートすると言っても、資本コストから見た収益性は本当に妥当なのか。この意思決定の土俵に関わっていくことは容易でない。
・第2に、「経営戦略の妥当性について再考」してもらうにはどうしたらよいのか。それには、執行担当のマネジメントから信頼してもらえるかどうかが鍵である。
・社外取締役を引き受けるかどうかを判断する時に、経営陣とりわけ社長との相性を見極める必要がある。人の意見を聴ける人か、対立しても一目置いてくれる度量のある人か、社外の意見を踏まえて自らの方針を再考できる人か。ここを確認しておかないと、後々大変なことになる。
・通常、社長は自分の判断に自信を持っている。自信はないが、部下がいうならやってみようという経営者はあまりいない。何らかの意思決定に、議論の段階から合理的な根拠と説明を求め、それが十分でない時は、方針の変更をあえて提案する。大型M&Aはもちろん、金額的には小さな案件でもレピュテーションに関わる事態が想定されることもある。
・第3に、最後は執行サイドの意思決定に任せるとしても、何らかのルールや社会的倫理からみて納得できない時、例え対立しても「ダメなものはダメ」と諭す必要がある。うまくやって、では済まない時がある。ノーという覚悟を持っていないと社外取締役は務まらない。責任が重く、単なる名誉職ではない。
・次に、投資家としては、今回の社外取締役ガイドラインをどう活用していくのか。第1に、〈経営がどう変わったか〉をみていく。社外取締役が選任され、一定の活動を経て、企業経営がどう変わってきたか。
・本来なら、コーポレートガバナンスの体制、経営陣の言動、事業戦略への布石、リスクマネジメントのあり方などに変化が出てくるはずである。仕組みを変えることによるアウトカム、それが動き出すことによるパフォーマンスの変化をみていく。
・第2は、社外取締役が入って、〈どういう議論をしているか〉を知りたい。この点を外部から知ることはなかなか難しい。取締役会の実効性評価がいくつかの形でなされるようになってきた。議論の詳細を知りたいわけではなく、代表的な事例を知りたい。
・社外取締役はどうやって選ばれたのか。今回なぜ交替したのか。新しい社外取締役はどんな問題意識で意見を述べているのか。取締役会での議論の風景はどんなふうに変わったのか。
・それはこれまでよりもよい方向に進んでいるのか。かつてない画期的なことが起きているのか。これらの点について、投資家ときちんと対話(エンゲージメント)できる会社は、改革が進んでいると評価できよう。
・第3は、社外取締役のIRへの関わりである。これには二面性がある。1つは、取締役会での議論を通して、会社のIR活動に社外取締役が適切な意見を述べているかどうかである。IRは社長、CFO、IR担当の専任事項ではない。機関投資家や少数株主にどう理解を得ていくかという観点が常に求められる。
・こうした観点から議論をして、意思決定の内容をIRのコンテンツに盛り込んでいく必要がある。そうでないと、投資家から、①何でこんな決定をしたのか、②こんな公表で満足すると思っているのか、③投資家のことがわかっていない、ということになりかねない。
・もう1つは、社外取締役が投資家との対話に直接出ていくことである。①その時何を話すのか、②投資家が本当に知りたいことは何なのか、③どう話せば満足してくれるのか。これらの点について、十分練って準備しておく必要がある。
・今回の5つの心構えは、社外取締役が自らの基本的役割をよく認識し、果たすべき役割について覚悟を求めている。今後は、機関投資家やアナリストからも社外取締役に就く人々が増えてこよう。投資家の経験を取締役会に活かすことが一段と重要になる。大いに期待したい。