シーメンスのグローバル経営~チーフ・ダイバーシティ・オフィサー

2012/09/10

・シーメンス・ジャパンの織畠社長(CEO)の話を聞いた。創業者ヴェルナー・フォン・シーメンスが会社を興してから165年、190カ国に進出している。国別の売上げでは、1位米国、2位中国である。

・2011年度の売上高は735億ユーロ(7.35兆円)、税引き利益63億ユーロ(利益率8.6%)であった。従業員は世界で36万人。R&D費は売上比で5.3%、研究者は2.8万人いるが、そのうち1.7万人はソフトウェアのエンジニアである。

・事業分野は、エネルギー、ヘルスケア、インダストリー、インフラストラクチャー&シティという4つのセクターである。最近、インフラ&シティを既存のセクターから切り出して、第4のセクターと位置づけた。この4つのセクター(事業)を14のクラスター(地域)で実行している。その中で、日本は1つの独立したクラスターで、織畠氏はここのトップであると同時に、ヘルスケアのクラスターのリーダーでもある。

・シーメンスは総合テクノロジー企業として、One Siemens を合言葉に、持続可能な価値創出を目指している。会社全体としての財務目標として、(1)同業他社を上回るスピードでの売上高の成長、(2)ROCE(使用総資本利益率)を重視した資本効率の向上、(3)バランスの取れた資本構成で、健全な配当性向を確保する、という内容を掲げている。

・そして、4つのセクターは、いかなる景気下においても、各マーケットにおいてトップレベルの利益率(EBITDAベース)を上げることを目指している。いかなる条件でもトップレベルとは、明快である。利益ではEBITDA(償却前営業利益)を重視している。会計基準は、IFRS(国際財務報告基準)である。

・その上で、戦略を立てる前提として、世界のメガトレンドに注目する。(1)途上国を中心とした都市化の進展、(2)高齢化が進行する人口構成の変化、(3)CO2による気候変動、(4)新興国と天然資源に関わるグローバライゼーションの進展。これら4つを将来に影響を及ぼす世界的な傾向と捉え、ビジネスチャンスにしようとしている。一方、この10年で、モバイル、半導体、コンピュータなどの事業を売却し、エネルギーやヘルスケア分野のM&Aに集中してきた。

・今後の戦略の方向性は、1)イノベーション主導の成長市場にフォーカスする、2)お客様にとっての真のパートナーになる、3)シーメンスとして持てる力を人財として結集する、という点にある。1つ目のイノベーションでは、例えば、アフリカの砂漠を太陽光発電へ利用する、CT(コンピュータ断層撮影)装置を中国で開発生産し世界に輸出する、などを狙う。

・2つ目のパートナーシップでは、新興国で売上を2桁成長させるとともに、新興国での従業員を2倍に拡大し、同時に顧客との戦略的提携を一段と強化していく。顧客ごとのアカウントマネジャー(世界で1200人)をはっきりさせるキーアカウントマネジメントを強化している。

・3つ目の人財(ヒューマンキャピタル)については、社員の能力開発、ダイバーシティの尊重、インテグリティの推進に力を入れていく。ダイバーシティ(人材の多様性)は、‘ビジネスの成功に不可欠の要素である’として、チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)をおいている。また、インテグリティ(誠実さ)の重要な要素であるコンプライアンスについては、「真正、明確、妥協なし」を基本としている。

・セクター(事業)とクラスター(地域)のマトリックス経営に関して、事業展開はセクター中心に、クラスターは地域密着とガバナンスを担っていく方針である。戦略の実行に当たっては、米国も欧州も同じやり方で進む。ガバナンスのあり方は米国に近い。しかし、人事戦略という点で、今のところ、マネジメントのトップクラスはドイツ人中心である。この10年で大きく変身してきたシーメンスの次の展開に注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ