敢えて「放置プレイ」をした中国人民銀行
今週の国内株市場ですが、先週もこのコラムで採り上げた中国の動向に注目が集まっています。ニュースなどでも「影子銀行(シャドーバンキング)」というキーワードが数多く顔を出すようになり、直近の中国株市場は大きく下落する場面が目立ちました。
その背景には、中国の銀行が短期の資金とやり取りする市場の金利(上海銀行間取引金利=Shibor)が急騰したことにあります。6月20日には翌日物の金利が13.44%と過去最高を記録しました。短期金融市場で資金需給が逼迫することで、「中国の金融機関の資金繰りは大丈夫か?」ということになり、地方政府の債務やシャドーバンキングの焦げ付き、景気への不安が高まった格好です。実際に6月24日の上海綜合指数は前日比で5.3%の急落となりました。
実は、短期金利の上昇は6月上旬からすでに始まっていました。中国の景気減速に対する警戒もずっと燻っています。中国人民銀行をはじめとする当局は、資金供給オペの実施や景気浮揚策などを打ち出すことは可能だったのですが、敢えて何もせず「放置プレイ」をしてきました。その目的は流動性を引き締めて、過去数年間にわたって拡大してきたシャドーバンキングを取り締まりたいのではとされています。ちょうど、6月下旬は1兆5,000億元規模の理財商品(シャドーバンキングの一種)の償還が相次ぐタイミングでした。
もう少し広い視点で見れば、中国の現指導部は多少の景気減速や市場の混乱を覚悟してでも、これまで着手できなかった経済構造の改革を推進していく姿勢を強調したとも言えます。そもそも、中国の経済構造を「投資・外需主導」から「消費・内需主導」にシフトしていくことは長年の懸案事項でした。2008年のリーマンショック後に打ち出した大規模な投資を中心とする景気対策は、過剰な生産能力をはじめ、いびつな産業構造、環境破壊、地方政府の債務増加、不健全な金融システムの拡大などの副作用をもたらし、そのリスクは無視できないほどに増大しています。
とりわけ、ここ数年で急拡大してきたシャドーバンキングについては、その規模や実態が把握しきれていないことや、シャドーバンキングを通じて調達された資金の多くが不動産や平台(地方政府傘下の特別目的会社)、収益率の低いプロジェクトなど、貸出リスクの高いところに向かっていると思われ、当局も強い危機感を持っていると思われます。当局はこれまで、不動産取引の規制など運用先への規制で圧力をかけてきましたが、今回は短期金融市場を通じて資金の調達先に圧力をかけてきたというわけです。
まずは、シャドーバンキングの拡大をストップさせ、次に、処理すべき不良債権を選別して潰すところは潰し、残った債務についても借り換えなどを通して返済期限を長期化させて時間を稼いでいる間に構造改革を進めていく、というシナリオを当局は描いている可能性があります。
人民銀行は25日の夜に声明を出し、流動性の適正な調節や金融市場の安定を維持する方針を示したほか、既に一部の銀行に対して資金供給を行ったことも発表しました。これを受けて、足元の中国市場は短期金利を中心に落ち着きを取り戻しつつあります。一部ではさらに踏み込んだ対応を期待する声もあるようですが、人民銀行の「放置プレイ」の背後にある意図からは、景気や株価を浮揚させることを目的に政策を出してくるのではなく、あくまでも市場の混乱を抑制させるための対応にとどまるものと思われます。
そのため、短期的な中国株市場は、当局がどこまでの景気減速なら許容できるのかを経済指標などをチェックしながら探る展開がしばらく続きそうです。加えて、不良債権のあぶり出しと処理のプロセスを明確にすることや構造改革を着実に進めていけるかどうかも注目点になります。
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