PRISM BioLab(206A)化合物ライブラリー拡充、自社開発・共同開発パイプライン拡大で成長を目指す

2024/07/08

PepMetics技術により細胞内のタンパク質間作用を制御する低分子医薬品を開発
化合物ライブラリー拡充、自社開発・共同開発パイプライン拡大で成長を目指す

業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦

◆ PepMetics技術で細胞内タンパク質間作用を制御する医薬品を開発
PRISM BioLab(以下、同社)は、独自の「PepMetics(Peptide Mimetics)」技術によるペプチド注1を模倣した低分子有機化合物を用いて、細胞内でのタンパク質間相互作用(Protein-Protein Interaction注2、以下PPI)を制御する低分子医薬品の開発を行っている。

◆ タンパク質に結合する低分子有機化合物を作成するPepMetics技術
細胞内では、細胞外からの刺激に対して様々なタンパク質がシグナルの伝達を行い、細胞核内のDNAに伝えられてmRNA注3の生成、mRNA情報の翻訳により新たなタンパク質が生成される。

細胞内のシグナル伝達に重要な役割を果たすのがPPIであり、異常をきたすと疾患のもととなるため、疾患を治療する創薬の標的になる。細胞外のタンパク質の制御には抗体医薬品注4が使われるが、抗体医薬品は分子量が大きいため、細胞内に入ることができない。一方、従来の低分子医薬品注5は細胞内に入ることはできるが、平面的な構造のため、立体構造のタンパク質への結合が難しく、細胞内PPIを標的とする創薬には対応できなかった。

同社のPepMetics技術は、タンパク質の結合に頻繁に使われるらせん状のヘリックス構造を模倣した骨格にアミノ酸側鎖を組み合わせることで、多種多様な立体構造のペプチド模倣低分子有機化合物を作成する技術である(図表1)。作成された低分子有機化合物は、細胞内で標的とするタンパク質に結合し、アミノ酸側鎖の作用により、PPIの相手のタンパク質との結合を阻害することで薬理効果をえる。

PepMetics技術を用いて、40種類以上の骨格、50種類以上のアミノ酸側鎖、3~5カ所の側鎖位置の組合せにより、理論的には2億5,000万個以上の化合物のデザインが可能である。同社はこうした化合物デザインを、バーチャルライブラリーとして確保しており、そのうち実際に化合物として合成し、活性や薬理効果等の評価を行えるライブラリーとして2万個以上を保有している。バーチャルライブラリーは標的タンパク質への結合状況のシミュレーションや、効率的な化合物の合成等に役立てられる。

◆ 事業モデルと収益構造
同社はPepMetics技術による創薬基盤を活用して、自社開発事業と共同開発事業の2つの事業モデルを展開している。

自社開発事業では、同社が創薬標的を選定し、創薬標的に対する活性のある初期の化合物(Hit化合物)の創出、Hit化合物から臨床候補化合物への最適化を行い、動物実験等の非臨床試験段階を進めながら製薬会社へ導出する。収入としては、導出時の契約一時金、開発に応じたマイルストン、販売後の売上に対するロイヤリティ収入を得るというハイリスク・ハイリターン型の事業モデルである。

共同開発事業では、提携先の製薬会社が選定した創薬標的に対し、同社のPepMetics化合物ライブラリーを用いて、Hit化合物の創出、化合物最適化を行う。収入としては、契約一時金、共同研究収入、開発に応じたマイルストンや売上に対するロイヤリティを得る。開発パイプラインからの収入総額は自社開発事業に比べて小さくなるが、同社の投資が少なく、早期の収益化を見込むことができる事業モデルである。

◆ 開発パイプライン
同社は自社開発事業で3本(化合物探索段階を含めると5本)、共同開発事業で7本のパイプラインを保有している(図表2)。

1) 自社開発事業パイプライン
自社開発パイプラインでは、第Ⅱ相臨床試験段階にある医薬品として、Wntシグナル伝達経路注6の阻害薬のE7386、PRI-724がある。

E7386は、同社とエーザイ(4523東証プライム)が共同創製した、ガンを適応症とした医薬品である。13年7月にエーザイに導出された。エーザイで進行性肝細胞ガンを対象に第Ⅰb相臨床試験が行われ、21年11月にはPOC注7を達成した。現在、第Ⅱ相臨床試験を実施中である。契約一時金、開発・販売マイルストン、及び研究費を含めて最大250億円以上を受け取る契約になっている。

Wntシグナル伝達経路は、ガン細胞の「増殖」に関係することが知られており、従来、細胞外からのWntシグナルを阻害することでガン細胞の増殖を抑える薬品の開発が進められてきた。しかし、Wntシグナルは、細胞の増殖だけでなく、異なる機能を持つ細胞への「分化」にも重要な役割を果たすため、細胞外の上流でWntシグナル全体を止めると毒性のある副作用が発生するため、開発が中止されてきた。

E7386は、細胞内のWntシグナル伝達経路にあるCBPに結合してβカテニンとの結合を阻害することで、ガン細胞の増殖を抑制する。また、CBPとの結合を阻害されたβカテニンが細胞の「分化」を促進するP300と結合することで、細胞の「分化」機能が誘導される(図表3)。

Wntシグナル伝達経路でのβカテニンとCBPの結合阻害は、臓器の硬化をもたらす様々な線維症にも効果が示されている。PRI-724は、18年5月にガン以外の分野を対象に大原薬品工業(滋賀県甲賀市)に導出された。大原薬品工業でC型肝炎及びB型肝炎による肝硬変患者を対象に第Ⅰ相、第Ⅱa相臨床試験が行われ、22年4月にPOCを達成した。現在、第Ⅱ相臨床試験を実施中である。

化合物最適化段階にあるパイプラインとしては、細胞内のタンパク質翻訳に関わる2つのタンパク質の結合を阻害し、ガンの増殖に必要なタンパク質の合成を止める化合物FEPがある。その他、化合物の探索段階にあるパイプラインが2本ある。

2) 共同開発事業パイプライン
共同開発事業は17年3月以降に本格展開された。現在、ドイツのBoehringer Ingelheim International GmbHとMerck KGaA、フランスのLES LABORATOIRES SERVIER、スイスのF.Hoffmann-La Roche Ltd.、米国のGenentech, Inc.とEli Lilly and Company(以下、Eli Lilly)、及び小野薬品工業(4528東証プライム)の7社との共同開発パイプラインがある。海外の大手製薬会社との契約が多い。

23年11月に締結したEli Lillyとの契約では、最大3つの創薬標的に対する創薬研究を対象に、同社がリード化合物、臨床候補化合物の合成と評価までを行う内容となっており、契約一時金、マイルストン、ロイヤリティを合わせて最大6億6,000万ドルを受け取る契約となっている。

◆ 売上内訳と主要販売先
同社は創薬事業の単一セグメントであるが、自社開発事業、共同開発事業別の売上高と、主要販売先を開示している(図表4、図表5)。

22/9期の自社開発事業の売上高は、E7386のPOC達成に伴うエーザイからの開発マイルストン収入であり、23/9期の自社開発事業の売上高は、PRI-724の第Ⅱ相臨床試験開始に伴う大原薬品工業からの開発マイルストン収入である。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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