ハッチ・ワーク(148A) 月極イノベーション事業の拡大を目指す
月極駐車場の集客力向上と管理業務効率化に貢献しながら収益機会を拡大
月極イノベーション事業の拡大を目指す
業種:情報・通信業
アナリスト:髙木伸行
◆ 月極駐車場関連事業と貸会議室関連事業を行う
ハッチ・ワーク(以下、同社)は、月極駐車場のオーナーや管理会社が安定的な収益を上げ、管理業務を自動化できるようにするサービスなどを提供する月極イノベーション事業と貸会議室やレンタルオフィスの運営を行うビルディングイノベーション事業を行っている。月極イノベーション事業を成長分野としており、同事業の売上高構成比は年々上昇している(図表1)。
◆ 月極イノベーション事業
月極イノベーション事業は月極駐車場に関係する事業で、主として(1)APソリューションサービスと(2)APクラウドサービスで構成されている。事業内容については後述するが、23/12期の売上高構成比はAPソリューションサービスが35.3%、APクラウドサービスが64.7%となっている。
APソリューションサービスの売上高が横ばい傾向にあるのに対して、APクラウドサービスの売上高は決済代行台数や滞納保証台数の増加を受けて急拡大している(図表2)。月極イノベーション事業の売上高の約6割はストック型の収益が占めており、安定性の高い事業である。
(1)APソリューションサービス
APソリューションサービスとして、53,000件弱の月極駐車場(車室数ではない)が掲載されている月極駐車場検索ポータルサイト「アットパーキング」の運営と「アットパーキング」に掲載されている月極駐車場と駐車場を探している生活者をマッチングするサービスを提供している。また、月極駐車場のサブリースも行っている。
APソリューションサービスの収益は、管理会社と駐車場利用者をマッチング(駐車場賃貸借契約の締結)した時に受け取る、駐車場利用料の1カ月分に相当するマッチング手数料とサブリースしている月極駐車場の利用料になる。収益の性格はマッチング手数料がスポット型、サブリースに関する利用料はストック型になる(図表3)。
(2)APクラウドサービス
同社は月極駐車場のオンライン管理支援サービスである「「アットパーキングクラウド」を管理会社向けに提供している。
同社が委託された管理物件(「APクラウド登録台数」として経営上の重要な指標として、同社は重視している)は、「アットパーキング」にも掲載され満空情報がリアルタイムで更新されるため、賃借希望者は空き駐車場の検索が容易且つスピーディーに行えることが可能になる。
また、「アットパーキングクラウド」に登録されている駐車場(APクラウド登録駐車場)については、賃借希望者は空き駐車場の検索に加えて、申込、審査・契約、決済まで全てをオンラインで行うことが可能となる。管理会社は駐車場利用者の募集、審査、契約手続き、賃料回収といった多くの業務を自動化でき、駐車場の運営・管理に関する費用を削減できる。
APクラウドサービスの収益は、金額は開示されていないが、システム利用料、決済手数料、そして滞納保証に関する初回保証料と月額保証料で構成されている。滞納保証の初回保証料以外は毎月受け取るストック型収益である(図表3)。
システム利用料は基本プランが月額15,000円(基本プランからコールセンター並びに既存の駐車場利用者の決済代行を除いたプランは無料)となっており、管理会社にとって導入のし易さを意識した料金設定となっている。
決済手数料は駐車場利用料を同社が決済代行することで駐車場利用者から毎月受け取る定額の手数料である。滞納保証料は契約時に受け取る賃料1カ月分に相当する初回保証料と月額賃料の5%に相当する月額保証料で構成されている。決済代行料と月額保証料がストック型の収益となる。
「アットパーキング」のシステム利用料は戦略的に低くおさえられていることから収益への貢献はさほど大きくはないが、駐車場利用者から受け取る決済手数料や滞納保証料で継続的に収益を上げてゆくというのが同社のビジネスモデルである。
(3)成長の鍵を握るAPクラウド登録台数の増加ペース
オーナーや管理会社が「アットパーキングクラウド」導入時において、既存の駐車場利用者が同社の滞納保証や決済代行サービスへ一気に切り替えることはないが、それらの利用者が解約した後に新しい駐車場利用者がオンラインで契約を完結させる過程で同社の滞納保証や決済代行を利用し始める。このため、時間の経過、つまり駐車場利用者が入れ替わるとともに同社サービスの利用者が増加することになる。「アットパーキングクラウド」に登録すると同時に収益貢献が始まる訳ではないが、将来の収益につながるため、同社は「APクラウド登録台数」の拡大を最重要課題に位置付けている。
「APクラウド登録台数」は着実に増加している。「APクラウウド登録台数」は、23/12期末時点で31.1万台に達しており、22/12期末の21.6万台から44%増加した(図表4)。「アットパーキングクラウド」に登録された駐車場のうち、決済代行台数は23/12期末11.9万台と22/12期末の7.7万台から54%増加しており、同社が滞納保証している台数は23/12期末には4.5万台に達しており、22/12期末の2.5万台から82%増加している。
このように「APクラウド登録台数」という母集団が拡大することにより、着実に決済代行あるいは滞納保証というサービス利用が拡大するという構図が見て取れる。
同社は収益の殆どを駐車場利用者から得ているが、「APクラウド登録台数」の拡大が将来の収益に大きく影響するため、オーナーや管理会社を取り込むことは事業上、極めて重要である。上述したが、「アットパーキングクラウド」の利用料を月額15,000円、あるいは無料とするのは、オーナーや管理会社が導入する際のハードルを極めて低く設定して、「アットパーキングクラウド」を導入してもらうためである。
管理会社にとっても月極駐車場は住宅に比べて賃料が低いことから、収益貢献が小さく、営業や管理面で省力化したいというニーズは強い。とは言っても管理会社は「アットパーキングクラウド」の導入時に、管理している駐車場全てを対象にする訳ではなく、集客力や管理面での利便性を評価するため部分的に導入することが一般的である。このため利便性などが評価されるにつれ、管理下にある未導入の月極駐車場に「アットパーキングクラウド」を順次導入していくという動きもみられる。
◆ ビルディングイノベーション事業
ビルディングイノベーション事業として、貸会議室を運営する(1)会議室サービスと主にレンタルオフィスを提供する(2)オフィスサービスを行っている。23/12期の売上構成比は会議室サービスが87%、オフィスサービスが13%であった。
(1)会議室サービス
貸会議室サービス「アットビジネスセンター」及び企業内の使われていない時間帯の会議室をシェアする「シェア会議室」を運営している。貸会議室は東京、横浜、大阪合計で12カ所、シェア会議室は東京に4カ所ある。
「アットビジネスセンター」は賃貸借契約によりオーナーからフロアを借り上げて同社が直接運営し会議室の利用料が同社の収益となる「直営方式」と他社の貸会議室の運営のみを委託され、レベニューシェアにより収益の一定割合を受け取る「委託方式」がある。同社は地域を絞って10人から60人程度を収容できる会議室の運営が多く、中小型のビルに展開している場合が多い。この点で大規模な貸会議室を全国で運営するティーケーピー(3479東証グロース)などの大手とは一線を画している。
シェア会議室は企業内の使われていない時間帯の会議室をシェアするものである。アットビジネスセンターと同様、「直営方式」と「委託方式」の両方で運営されている。
(2)オフィスサービス
40代以上をメイン利用者に捉えて、起業家や士業向けのレンタルオフィスを東京の上野と池袋の計2カ所で運営している。この他、規模は小さいがプロパティマネジメントやビルメンテナンス業務も行っている。