VRAIN Solution(135A)AI外観検査システムにおいて高い技術力を誇る

2024/02/27

製造業顧客にAIシステムやDXコンサルティングサービスを提供
AI外観検査システムにおいて高い技術力を誇る

業種:情報・通信業
アナリスト:大間知淳

◆ AIシステムとDXサービスを製造業の顧客に提供
VRAIN Solution(以下、同社)は、製造業の顧客に対し、自社開発のAI外観検査装置等の「AIシステム」と、AIやIoT注1技術を活用したDX推進のための「DXコンサルティング」を提供している。同社は、キーエンス(6861東証プライム)やエムスリー(2413東証プライム)等での勤務経験を持つ南塲勇佑氏(現代表取締役社長)によって、20年3月に設立された。

同社は、製造業DX事業の単一セグメントであるが、サービスの内容により、AIシステムとDXコンサルティングに区分している。23/2期におけるサービス別売上高構成比は、AIシステム56.9%、コンサルティングサービス43.1%であった(図表1)。

◆ AIシステム:AI外観検査装置を開発・販売
(1) 特徴
同社は、自社のエンジニア部門においてAIシステムの企画、研究、開発を行っており、特定の顧客毎に仕様を大幅に調整する必要がない汎用性の高いシステムを販売している。顧客の製造ライン環境や、解決したい課題に合わせて、自社開発のAIソフトウェアの提供だけでなく、他社から購入したカメラやセンサー等の撮像機器等の周辺のハードウェアと組み合わせたシステムとして、製造業の顧客に提供している。

同社のAIシステムの主力製品はAI外観検査装置である。同社の顧客は、従来、製造ラインの検査工程において検査員の目視で行われていた良品/不良品の判定を、同社が開発したAI外観検査システム「Phoenix Vison/Eye」を導入することで、省力化、自動化することが可能となっている。

Phoenix Vision/Eyeは、AIモデルを作成する「学習用」ソフトウェアであるPhoenix Visionと、作成されたAIモデルに基づいて良品/不良品を判定する「検査用」ソフトウェアであるPhoenix Eyeによって構成されている。

Phoenix Visionは、「分類」、「検出」、「領域抽出」、「良品学習」という4つの機械学習のAIアルゴリズムが搭載されており、食品、金属、樹脂製品、電子機器等を対象とした様々な検査項目に対応可能となっている。最先端のAIプロダクトでありながら、誰でも簡単に扱えるように設計されているため、顧客は作業を担う人材を新たに確保する必要がない。また、学習によって作成されたAIモデルは、即座に精度検証、確認が可能となっている。

Phoenix Eyeは、Phoenix Vison同様、専門の技術者でなくても扱えるように設計されているほか、顧客の製造ラインに導入されているPLC注2、カメラ、照明等の周辺機器との連携が可能となっている。また、従来型の外観検査装置で使用されていた、良品/不良品を判定する「ルールベース」を搭載し、AIモデルとのハイブリッド検査を行うこともできる。

(2) 強み
1) 製造業に対する豊富な知見
製造業においては、商談やサービス提供の過程において、業界、製品、製造工程に関する高度な知識が求められる。同社には、南塲社長や、キーエンス出身の山田郁生取締役を始め、多くの製造業出身者が在籍しているが、マニュアル化や社内教育により、製造業出身者でなくても、十分な成果を出せる仕組みを構築している。

2) 企画から導入までのワンストップ対応
同社はAIソフトウェアの開発、販売だけでなく、システムの企画から、カメラやセンサー等の撮像機器及び検査装置の製作等の提案、設置、稼働までをワンストップで提供している。他のAIベンダーは、ソフトウェアのみを販売し、撮像機器等については顧客側で調達する場合が多く、導入後の本番環境下において、高い検査精度が出せない事例が見られるようである。同社は、ワンストップで対応しているため、高い検査精度を実現することが可能としている。

3) 自社開発のAI技術による外観検査処理
外観検査装置で使われている従来技術である「ルールベース」は、人が設定した検査ルールに基づいて良品/不良品を判定することから、設定には専門知識が必要な上、条件が複数ある場合にはその分の検査基準を全て事前に登録する必要がある。検査結果においても、その検査基準に完全に一致したもののみを検出する仕組みとなっている。そのため、「ルールベース」による外観検査では、不良品だけを「ルールベース」で排除することは難しく、外観検査装置を導入しながら、結局は検査員による目視検査を併用する製造現場も存在している。

一方、AI技術を用いた場合は、良品/不良品の画像を学習データとして与えて自己学習させていくことで、検査対象物の特徴を自動的に抽出して判断するようになることや、試行回数を増やすことで検査精度を高めることが期待できる。

4) 汎用性の高さ
AI外観検査システムの核となる基盤は、自社開発の汎用性が高いソフトウェアであるため、特定の顧客毎に仕様を大幅に調整する必要がなく、要望によっては受注後、1週間程度で導入可能となっている。既に「ルールベース」による外観検査装置を利用していた顧客は、学習によってAIモデルを作成するまでの期間において、従来の「ルールベース」も組み合わせて検査することも出来る。こうした汎用性の高さにより、多くの工場を保有する大手メーカーの大量な製造ラインに同社のAIシステムが導入される可能性を秘めている。

(3) 導入実績
23/2期までの3期間におけるAIシステムの累計取引社数は、自動車業界や食品業界を中心に69社に達している。23/2期のAIシステムの平均販売単価は10,028千円である。導入事例としては、大手自動車メーカー向け「部品の傷の自動検査」や、大手即席麺メーカー向け「かやくとソースの自動分類」、大手ハムメーカー向け「生成されたハムの自動検査」等が挙げられる。

◆ DXコンサルティング:幅広い分野に各種ソリューションを提供
(1) 特徴
同社は、製造業の顧客のDXプロジェクトにおいて、AIやIoT技術を活用して、課題設定・データ評価フェーズから、PoC(検証)フェーズ、システム開発フェーズ、運用・水平展開フェーズまでを支援する伴走・実装型ソリューションを提供している。

(2) 強み
製造業、特に製造現場におけるDXには、製造業界や製造工程に対する十分な知見が必要となるものの、AIベンダーやDXコンサルティング会社には製造業界や製造工程に精通した人材は少なく、製造現場のDXコンサルティングを十分なレベルで提供できる会社は少ないと同社は考えている。

同社は、製造業に特化してサービスを提供してきたことから、製造業と製造工程における多くの知見、実績、ノウハウを培ってきた。このため、現在では、顧客の生産設備からデータを取得するためのデバイスの選定から、データ取得、分析、結果を踏まえた実際の運用までを支援している。

(3) 導入事例
23/2期までの3期間におけるDXコンサルティングの累計取引社数は、自動車業界や食品業界を中心に19社にとどまっているが、同一顧客に対して幅広い課題について継続的にサービスを提供することが多い模様である。

導入事例は、製造プロセスにおける外観検査、異音検査、作業解析、設備予知保全、作業者安全管理のほか、サプライチェーンにおける需要予測、生産計画最適化、在庫最適化、配送最適化、エンジニアリングチェーンにおけるトレンド予測、特許検索自動化等、幅広い分野に広がっている。

◆ 高い売上総利益率や限界利益率に特徴がある
同社の売上原価(当期製品製造原価)は、材料費(AIシステムの部材として仕入れるカメラやPC等)、労務費(AIシステム及びDXコンサルティング)、経費(AIシステム及びDXコンサルティング)によって構成される当期総製造費用から原材料及び仕掛品の期首期末差額と他勘定振替高(販売費及び一般管理費に振替えられるAIシステムに係る研究開発費)を控除することで算出される。

23/2期においては、売上高材料費率10.8%、売上高労務費率10.2%、売上高経費率12.5%(うち、売上高外注費率7.5%)、売上高当期総製造費用率33.5%であった。ここから、棚卸資産の増加による影響(3.1%ポイント)と、他勘定振替高による影響(19.0%ポイント)が控除され、原価率は11.4%にとどまった。結果、売上総利益率は88.6%と極めて高い水準となっている。

なお、AIシステム売上高に対する材料費の割合を確認すると、22/2期が25.8%であったのに対し、23/2期は19.0%に低下している。同社のAIシステムは、顧客のニーズに応じて、独自開発したソフトウェアと、外部から購入するハードウェアを組み合わせて製造されるため、費用に占める材料費の割合によって、AIシステムの売上総利益率が変動することに注意が必要である。

一方、23/2期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は482百万円であり、販管費率は78.2%と高水準にある。内訳としては、研究開発費が117百万円、給与及び賞与が83百万円、役員報酬が51百万円、採用費が38百万円、減価償却費が12百万円であり、固定費が中心と推測される。なお、23/2期の売上高研究開発費率は19.0%と高い。

売上原価と販管費の中で、変動費に該当するものは原材料費と外注費等に限定されるため、証券リサーチセンターでは、同社の限界利益率を20%前後と推測している。23/2期の営業利益率については、販管費率の高さを極めて高い売上総利益率で吸収し、10.4%を確保している。

なお、24/2期第3四半期累計期間においては、AIシステム売上高の急拡大に伴い、売上総利益率は79.0%に低下したものの、増収効果に伴う販管費率の改善により、営業利益率は36.5%と、極めて高い水準へと上昇している。

同社の23/2期末における自己資本比率は26.2%と低水準である。負債の中心は有利子負債(負債純資産合計比35.1%)、未払費用(同9.7%)、契約負債(同6.8%)等である。一方、資産の中心は、売掛金及び契約資産(総資産比46.4%)、敷金(同15.6%)、有形固定資産(同12.9%)、棚卸資産(同12.2%)であった。

しかしながら、24/2期第3四半期末では、利益蓄積に伴い、自己資本比率は46.7%に上昇し、有利子負債は、23/2期末の119百万円から、現金及び預金(137百万円)を下回る81百万円に減少しており、財務体質は急速に改善している。

◆ 売上高、売上高成長率、営業利益、営業利益率等を重視している
同社は、売上高と売上高成長率を、自社の成長性及び市場への浸透度をモニタリングするための経営指標として重視している。また、売上総利益、売上総利益率、営業利益、営業利益率を、自社の収益性及び付加価値のバロメーターとして重視している。その他、受注残高、累計取引社数、継続顧客売上高についてもKPIとしている。

KPIの推移は図表2の通りである。AIシステムは売切り型のビジネスであるほか、DXコンサルティングの契約期間は、通常、短期間である。しかし、顧客の多くとは取引が継続する傾向にあるため、継続顧客売上高が売上高に占める比率は、23/2期が約49%、24/2期第3四半期累計期間が約43%と高い水準を維持している。

◆ DXコンサルティングではアイシングループへの依存度が高い
同社は、基本的には直販によって、上場企業やその子会社を含む製造業顧客を対象にサービスや製品を提供している。なお、伊藤忠商事(8001東証プライム)の連結子会社である伊藤忠テクノソリューションズと、23年10月にPhoenix Vision/Eyeの販売代理店契約を締結したが、24/2期第3四半期末までの期間において取引実績はない。

主要顧客としては、大手自動車メーカー、大手ハムメーカー、アイシン(7259東証プライム)及びアイシン高丘等のアイシングループ、ミツワ電機工業(大阪府羽曳野市)、長瀬産業(8012東証プライム)の連結子会社である東拓工業、明治ホールディングス(2269東証プライム)の連結子会社であるMeiji Seikaファルマ、雪印メグミルク(2270東証プライム)の連結子会社である八ヶ岳乳業、岡谷鋼機(7485名証プレミア)、フルヤ金属(7826東証プライム)等が挙げられる。

特に、DXコンサルティングサービスの主要顧客であるアイシンへの依存度が高く、売上高に占めるアイシン向けの比率は、22/2期の28.3%から23/2期には21.7%に低下したものの、23/2期のアイシン向け売上高は前期比37.5%増の133百万円に拡大している(図表3)。また、傘下の企業を含めたアイシングループ向けの売上高比率は27.5%であった。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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