ビジネスコーチ<9562> ビジネスコーチングで日本企業の活性化を目指す
企業役員、管理職、一般社員を対象にビジネスコーチングを提供
ビジネスコーチングで日本企業の活性化を目指す
業種: サービス業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ ビジネスコーチングを中心とした人材開発事業を展開
ビジネスコーチ(以下、同社)は、ビジネスコーチングを中心とした人材開発事業を主な事業としている。
ビジネスコーチングとは、「ビジネス目標を達成するために、クライアント(人と組織)の行動変容を支援する行為」である。また、ビジネスコーチとは、「ビジネスコーチングを提供できる実践知とスキルを有する人」である注1。
研修やコンサルティングと混同されがちだが、課題解決に向けてのアプローチは大きく異なる。研修は受講者が必要とする知識をインプットするアプローチであり、コンサルティングはコンサルタントがクライアントに対して専門的な情報を提供し、現状分析やソリューションを提供するアプローチである。これに対してコーチングは、コーチが承認・傾聴・質問などのプロセスによりクライアントに「気づき」をもたらし、クライアントの「行動変容」のアイデアを引き出し、「自発的な行動」を促すアプローチである。
同社の提供するビジネスコーチングは一人のコーチが一人のクライアントに対してコーチングを行う「1対1型」と一人のコーチがクライアントのグループに対してコーチングを実施する「1対n型」に分けられる。
同社の提供するサービスはビジネスコーチングのフェーズ(気づき、実践、継続・定着)とサービスのタイプ(1対1型、1対n型、その他)のマトリックスで構成されている(図表1)。また、各サービスの内容は図表2に示したとおりである。ビジネスコーチング以外では人事コンサルティング、公開セミナー、コーチング資格取得プログラムをその他サービスとして提供している。
21/9期の各サービスの売上構成比はビジネスコーチングプログラムが55%、マイクロラーニングが12%となり、以上で構成される1対n型で67%であった。また、エグゼクティブコーチングが18%、ビジネスリーダー/ビジネスパーソンコーチングが5%となり、以上からなる1対1型が23%を占めた。残りの10%はビジネスコーチング以外のサービスである。
◆ 1対1型コーチング
1対1型コーチングは基本的なサービス提供形態で、企業の役員などに対して同社の契約するパートナーコーチ(業務委託先)が1対1でコーチングを行うエグゼクティブコーチング(21/9期売上構成比18%)が代表的なものである。また、管理職、リーダー、一般社員向けに行う個人のビジネス目標達成のための行動変容支援コーチングであるビジネスリーダー/ビジネスパーソンコーチングがある。20年8月に開始したばかりのサービスだが、需要が多く、21/9期は売上高の5%を占めるに至った。
◆ 1対n型コーチング
1対n型ミーティングは、1人のパートナーコーチが複数の対象者に対してコーチングの方法を教えるサービスで主に管理職向けに提供している。
企業の管理職を対象とするビジネスコーチング・プログラム(21/9期売上構成比55%)が同サービスの主力である。この他、管理職や一般社員向けにコーチングサービスコンテンツを動画化したeラーニングサービスであるマイクロラーニングサービス(同12%)がある。
◆ 事業展開で重要な鍵を握るパートナーコーチ
コーチングの依頼に対して、同社のコーチ陣が対応するが、コーチにはパートナーコーチと社内コーチがある。主力は外部委託先である122名(7月末現在)のパートナーコーチである。パートナーコーチの数は順調に拡大している(図表3)。一方、社内コーチは6名であるが、研究・開発チームとしての位置づけで、社内コーチを増員する予定はない。
パートナーコーチのネットワークは同社の知的資本の根幹をなす。年間150名程度の応募があるが、選抜試験の合格率は2割から2割5分程度で、合格者とパートナーコーチとして契約を結ぶ。ただし、専属契約を結んでいるわけではなく、パートナーコーチは引き受ける仕事の選択や、他社の業務を行うことは可能である。
122名のパートナーコーチは、出身企業の規模でみると54%が従業員1,000人超の企業の出身者であり、企業在籍時の役職でみると、37%は経営者、役員、部長以上のバックグラウンドを持つものである。
パートナーコーチに対しては、フォーマット化された内容をベースにコーチングすることや、定期的な研修やフィードバックを義務化することで品質の維持・向上に努めている。企業のトップや経営幹部に対するエグゼクティブコーチングについては、パートナーコーチの中でも成績上位者に限定している。また、一定の評価に達しないパートナーコーチへの発注は控えるといったことも徹底している。
◆ 大手企業中心で継続率の高い顧客基盤
コーチング対象者が所属する企業は東証プライム市場に上場する企業並びにそのグループ企業が多数を占める。取引企業数は19/9期261社、20/9期245社、21/9期302社と推移し、新型コロナウイルス感染の影響を受けた20/9期は前期比減少したが、20年8月から開始したビジネスリーダー/ビジネスパーソンコーチングの寄与により、21/9期は回復した。
売上高に占める既存顧客の割合は、19/9期64.9%、20/9期63.6%、21/9期66.5%と高い水準を維持している。また、21/9期の取引継続年数別売上高内訳を見ると5年以上取引のある先からの売上高は24%、3年以上5年未満が25%、2年が22%と2年以上取引のある先が約7割を占めた。
◆ 労働集約型のビジネスモデル
21/9期の売上原価率は28.8%であった。売上原価明細書によると、売上原価の9割弱はパートナーコーチへの報酬である外注加工費である。パートナーコーチへの報酬は売上高に対して一定の料率で設定されている。また、売上高に占める販売費及び一般管理費(以下、販管費)の比率は48.0%であるが、開示されている情報からは、給料及び手当が販管費の6割強、その他の人件費項目を加えると、販管費の4分の3が人件費関係となる。このように同社の費用構造は労働集約的な事業構造を反映したものと言える。
AIの導入により、コーチングの質を上げ、パートナーコーチの特性や適性の分析を進めて生産性を上げて行く計画であるが、同社の事業の拡大にはパートナーコーチの確保は不可欠であり、事業の拡大に比例して、外注加工費が増加することは避けられない。