マイクロアド<9553> 収穫逓増型のデータプロダクトと労働集約型のコンサルティングが主要事業モデル
データとテクノロジーでマーケティングの変革を目指すデータプラットフォーマー
収穫逓増型のデータプロダクトと労働集約型のコンサルティングが主要事業モデル
業種: サービス業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ デジタルマーケティング領域で各種サービスを展開
マイクロアド(以下、同社)は、データとテクノロジーの力によってマーケティングを変革することを目的としており、デジタルマーケティングの領域で(1)データソリューションサービス、(2)海外コンサルティングサービス、(3)デジタルサイネージサービスの3つのサービスを提供している。
21/9期のサービス別売上構成比は、データソリューション58.6%、海外コンサルティング35.7%、デジタルサイネージ5.7%であった(図表1)。
3月末現在で、同社グループは同社並びに連結子会社11社、非連結子会社2社及び持分法適用関連会社1社で構成されている。連結子会社11社のうちインド子会社は清算中、ベトナムと中国上海の子会社は今期中に譲渡される予定である。
なお、上場前ではサイバーエージェント(4751東証プライム)が同社株式の63.0%を保有していたが、上場時点でも46.0%を保有する最大株主であり、同社とは広告売上取引及び広告媒体の仕入取引を行っている。また、上場前には同社株式の19.8%を保有していたソフトバンクは、上場時点では9.1%を保有しており、サイバーエージェント同様に同社との間に取引がある。
◆ データソリューションサービス
データソリューションサービスは1)UNIVERSEと2)国内コンサルティングサービスで構成されている。
1)UNIVERSE
UNIVERSEは多様な購買・消費行動を分析し、その分析データを活用して顧客企業のマーケティング課題を解決するサービスであり、データプラットフォームであるUNIVERSE DATA PLATFORMと広告プラットフォームであるUNIVERSE Adsで構成されている。
UNIVERSE DATA PLATFORMでは消費者の性別・年齢などを推定した人口統計学的データなどの一般的なデータ群と、業界・業種に特化したデータ群が蓄積されている。データは22年3月時点で211のデータ保有企業やメディアから収集しており、大量のデータを分析することで消費者の様々な購買消費行動の把握につなげている。
UNIVERSE Adsでは、UNIVERSE DATA PLATFORM によって分析されたデータを活用して、適切な消費者に対して広告配信を行っている。UNIVERSE AdsはRTB注1という技術により、消費者毎にリアルタイムで最適な広告を選択し、オークション形式で広告配信を行うプラットフォームである。
顧客企業へサービスを提供する際には上記の二つのプラットフォームを組み合わせて業界・業種ごとのプロダクトとして提供している。22年3月時点で17業種向けのプロダクトがある。主要なプロダクトとしてはB to B業種向け「シラレル」、飲料・食品業界向け「Pantry」、医療・製薬業界向け「IASO」、自動車業界向け「IGNITION」などがある。
業種向けプロダクトの中で最も売上構成比の大きいのはB to B向けで24%を占めている。B to B向けプロダクトの中では法人向けPCやクラウドサービスなどのICTサービスが大きなウエイトを占めている。B to B向けプロダクトに続いて、電子書籍16%、たばこ12%、飲料・食品9%が大きな構成比となっている(図表2)。
21/9期では389社の広告代理店と取引があり、広告代理店を通して開設されたアカウント数は2,017アカウントであった。業界・業種プロダクトの稼働アカウント数(発注件数)は、新型コロナウイルス感染症拡大や広告配信プラットフォームの刷新の影響をうけながらも拡大基調が続いており、業界・業種プロダクト以外の落ち込みをカバーする傾向が続いている(図表3)。
2)国内コンサルティングサービス
国内コンサルティングサービスでは、メディア企業向けの広告収益最大化サービスであるMicroAd COMPASSと企業のマーケティング課題の解決を行うマーケティングコンサルティングを提供している。
MicroAd COMPASSは22年2月時点で2,100を超えるインターネットメディアに導入されている。RTBによるオークションによって最も収益が見込まれる広告を瞬時に選択することで、メディア企業の広告収入の拡大に貢献している。同社はプラットフォーム利用料を受け取っている。
マーケティングコンサルティングは同社と子会社のエンハンスが提供している。同社は広告主企業に対して、エンハンスは主にメディア企業に対してサービスを提供している。
◆ 海外コンサルティングサービス
中国、台湾、ベトナムの子会社が現地企業並びに進出している日系企業に対してデジタルマーケティングに関するコンサルティングサービスを提供している。具体的な内容としては、各企業に対する現地でのプロモーション施策の立案、広告枠の買い付け及び運用、広告クリエイティブの制作が挙げられる。
台湾においては、サービスの一環として独自のネイティブ広告注2プラットフォームCOMPAS‐FITの提供や自社で運営している訪日インバウンドWebメディアでのタイアップ広告などの提供を行っている。海外については業務を見直す方向にあるが、日本に近いマーケットで広告代理店業務までカバーしている台湾に絞って強化してゆく方針である。
◆ デジタルサイネージサービス
子会社のマイクロアドデジタルサイネージがデジタルサイネージを設置しているロケーションオーナー注3向けのCMS注4であるMONOLITHSを提供している。MONOLITHSの機能としては広告配信機能があり、ロケーションオーナーはMONOLITHSの管理画面上より広告枠の設定ができ、アドサーバー注5としての機能と広告枠をアドネットワーク注6の広告在庫として提供する機能がある。
MONOLITHSを通じて配信可能なデジタルサイネージのロケーションは大型屋外ビジョン、ドラッグストア、スーパー、美容サロン、バスやタクシーなどで、22年3月時点で13万画面を超えている。広告主からロケーションオーナーに支払われる広告収益の一部をプラットフォーム利用料として受け取り、ロケーションオーナーからはCMS利用料を受け取っている。
◆ 労働集約型と収穫逓増型ビジネスモデルが併存
同社の3つのサービスは労働集約的なコンサルティングと収穫逓増型のデータプロダクトという2つのビジネスモデルに分類できる。
国内と海外でのコンサルティングサービスの売上総利益率は約20%である一方で、UNIVERSEやデジタルサイネージサービスといったデータプロダクトの売上総利益率は約40%という高い水準を維持している(21年10月~22年3月の平均)。コンサルティングは豊富な人的資源を抱える大手広告代理店との競争がある中、収益性や成長性を確保するのは困難な状況にある。一方、データプロダクトはデータと分析力を活かして、業界・業種に特化した多種多様なプロダクトを展開することにより高い収益性を確保している。同社はデータプロダクトに属するUNIVERSEに注力している。
21/9期のデータプロダクトの売上高は前期比18%増の36.7億円となり、売上構成比は31%であったが、売上総利益の構成比は38%であった。また、22/9期第2四半期累計期間(以下、上期)では、データプロダクトの売上構成比は36%となった一方で、売上総利益の構成比は52%まで上昇している。
データプロダクトでは、広告主や広告代理店から受け取る広告費などの一部を収益とし、広告掲載メディアに対しては広告掲載費を支払っている。コンサルティングにおいては広告主企業や広告主企業向け広告プラットフォームから広告費を受け取り、広告サービス提供企業やメディア企業に対して広告掲載費を支払っている。このほか、データ保有企業に対してのデータ費、データセンターやネットワーク回線の利用に関する設備費が大きな費用項目となる。
21/9期の全体の売上原価の約87%が広告掲載費、約3%がデータ費、同じく約3%が設備費と推定される。また、販売費及び一般管理費(以下、販管費)の中心は人件費である。