Institution for a Global Society<4265> 「GROW」が蓄積していく認知バイアスを除去した人材データが競争力の源泉
独自開発の人材評価ツール「GROW」をもとに企業の人材育成や学校の教育を支援
「GROW」が蓄積していく認知バイアスを除去した人材データが競争力の源泉
業種:情報・通信業
アナリスト: 藤野 敬太
◆ AI 活用の独自ツールをもとに、人材育成や教育を支援
Institution for a Global Society(以下、同社)は、独自開発の人材評価ツー ルをベースに、企業での人材育成と、学校での個別化教育の支援を行って いる。同社は10年5月にグローバル人材の育成を目的とした塾の企画運営 を行う企業として設立された。その後、教育の変革のためには人材評価を 根本的に変える必要性を強く認識し、多面的な能力を公平に評価する 「GROW」を開発し、16年2月に提供を開始した。この「GROW」をもとにした システムが、企業の人事分野や教育現場に導入され、現在の事業となった。
同社の事業は、企業の人事分野を主な対象にした HR 事業と、学校等の教 育現場を対象にした教育事業の 2 つの報告セグメントに分類されている(図 表 1)。20/3 期は事業化が早かった HR 事業が黒字になっていたが、教育事 業は赤字であった。21/3 期に売上高が拡大して両事業とも黒字となり、全体の営業利益も僅かだが黒字化した。
◆ 「GROW」
16 年2 月に提供開始の「GROW」は、就職活動をする学生を対象に、科学 的なコンピテンシー測定に基づいた現状分析と成長支援のほか、グローバル人材獲得を目指す企業とのマッチングまでをワンストップで提供するシス テムとして開発された。
人材の特性や能力を、「気質注 1」、「コンピテンシー注 2」、「スキル」の 3 つの 観点で可視化し、能力開発につなげることが最大の特徴であり、可視化の ためにいろいろな技術が使用されている。
「気質(回答者自身の性格)」は、診断ゲームに回答することで診断される。回答者がスマホ画面上で入力する際の指の動きが計測され、それを分析することで回答者が持つ潜在的な認知バイアス注3を除去して正確に測るという、 特許取得済みの独自技術が盛り込まれている。
「コンピテンシー」については 25 項目を測定するが、自己評価だけでなく、他者評価(360 度評価)も AI による独自技術で補正する点が特徴である。他者評価を必要とするため、就職活動をする学生が利用する場合、友人等の周囲の人間にも入力を依頼することとなる。周囲の人間が入力する際にも、潜在的な認知バイアスを除去する技術が使われている。そして、利用が増 えれば増えるほど情報が蓄積され、AI による分析の精度が高まっていく。
この「GROW」をもとに、利用者ごとのサービスが投入されていき、HR 事業や教育事業の展開につながっていった。
◆ HR 事業
HR 事業は、企業の人材採用、育成、配置、組織開発を支援するサービス を提供する事業である。「GROW」をもとに開発された、AI 搭載エンジンによって社員や採用候補者の気質、コンピテンシー、スキルを科学的に測定して能力を可視化する「GROW360」が中核サービスとなっている。
「GROW360」は 1 回 1 人当たり受検料が4,000円以下で利用できるため、 従来は特定の階層に限定して行われていた 360 度評価を、大企業でも全 社員対象に実施することが可能である。21 年10月末時点で、「GROW360」のユーザー(登録アカウント)数は67 万人、累計他者評価件数は5,550万件となっている。
こうして「GROW360」を通じて蓄積されたデータを起点に、データ分析、組織開発や人事戦略等の人事コンサルティング、研修や教材提供を実施し、 クロスセルによって収益を上げている。
もうひとつのサービスが、21 年 1 月に開始した、DX人材育成を支援する「DxGROW」である。「GROW360」を応用した評価システムと、DX 人材育成のための教育コンテンツをセットにした、評価と教育の両面をカバーするシステムとなっている。
21/3 期のHR事業の顧客は58社であった。20/3 期の74 社より減少してい るのは、大企業向けにシフトしているためであり、その証左として、20/3 期の301.1 万円であった平均顧客単価は 21/3 期には467.0 万円まで上昇した(図表 2)。
◆ 教育事業
教育事業は、学校や教育機関向けに、学生の非認知能力注 4 に着目した人材育成支援を行う事業である。「GROW360」で蓄積された人材評価をベー スに開発された、生徒の能力と教育効果を AI で可視化する評価システム 「Ai Grow」が中核サービスで、「Ai Grow」での評価をもとに、データに基づく育成や進路指導につなげていく。非認知能力を育成する動画コンテンツ 群「Grow Academy」や、オンライン英語学習「e-Spire」も提供している。
同社は、「Ai Grow」では1 人当たり年額 1,800円の受検料(別途設定代行 料300 円)、「Grow Academy」では1校当たり数10万円~数100 万円の教材費、「e-Spire」では1 人当たり月額 500 円~3,500 円の利用料を収益源と している。
従来、顧客は学校法人がほとんどだったが、20 年以降は、自治体や教育委員会が増加している(図表 3)
◆ 新規事業
人材個人に関するデータを取り扱う関係上、データの改ざんを防止し、安全に情報が保管、流通されることが必要不可欠となる。また、現状では、人材 としての自分のデータは企業が把握、管理しており、個人が管理できるわけではないという課題も存在している。
こうした課題解決に向け、ブロックチェーン技術の活用に着目している同社 は、ブロックチェーン技術を用いて個人が自分の情報をコントロールするシ ステム(BC システム)の構築を目指している。それに向けて、慶應義塾大学 経済学部附属経済研究所 FinTEK センターと共同で、個人情報の教育やキャリア形成、人材育成支援への利活用を目的とした実証事業「STAR (Secure Transmission And Recording)プロジェクト」を実施している。