タカヨシ<9259> 生活者と地元生産者を結び付ける場を提供
地域の食の産直プラットフォーム型店舗「わくわく広場」を運営
生活者と地元生産者を結び付ける場を提供
業種: サービス業
アナリスト: 髙木 伸行
◆ シェアショップを地域の生産者や食品メーカーに提供
タカヨシ(以下、同社)は、10月末時点で122のシェアショップ「わくわく広場」を関東地方中心に運営している(図表1)。店舗周辺地域の農家やパン屋、和洋菓子店、飲食店、惣菜店などといった「わくわく広場直売会」に登録した生産者(以下、登録生産者)と「わくわく広場」を販売場所として共有するシェアリングサービスを提供している。同社は、生産者のためのプラットフォーマーとしての役割に徹することを原則としている。同社の提供するプラットフォームにより、地域の生産者や食品メーカーなどは設備投資を行わなくても新たな販路を利用することが可能になる。
122店舗のうち100店舗はショッピングモール内にテナント(モール店)として出店しており、残りはロードサイド型の路面店である。また、フランチャイズ店が2店舗あるが、同社は直営での出店を基本としている。
登録生産者は販売したい商品をわくわく広場の店頭に直接納品・陳列し、同社は売場管理やレジ業務、商品の前出し注1や配送されてきた商品の品出し注2などを始めとした店舗運営を行う。
登録生産者が決定した販売価格に対して、同社が定める料率(50%~80%)に基づく仕入価格で、販売された商品のみを生産者から仕入れる消化仕入方式を採用している。このため、同社は店頭に陳列された商品について在庫リスクを負わない仕組みとなっている。生活者が購入した商品の販売金額を「流通総額」として集計しており、同社は重要業績評価指標(KPI)として重視している。また、流通総額から消化仕入金額を差し引いた金額が営業収益として損益計算書に記載される。
商品販売に関する資金の流れは、同社が商品を購入した生活者から代金を一旦預かり、毎月末に締めた仕入代金分を翌月15日に生産者に支払うというかたちである。なお、ロードサイド型の路面店では地域の生活インフラとしての側面もあるため、定番の生活必需品や日配品などについてはメーカーから仕入れ、同社の在庫として販売しているものもある。このような売上高は流通総額の約3%に相当している。
生産者が出品するためには、「わくわく広場直売所会」への登録が条件となるが、登録の際に各種の営業許可や免許の確認、農家に対しては栽培履歴を確認するといった審査が同社により行われる。ただし、登録生産者は登録料や保証金、年会費を支払う必要はない。また、契約制ではないため、「いつ、なにを、いくつ、いくらで」出品するかは、登録生産者が自由に決めることができるため、生産者にとって「わくわく広場直売所会」への登録の心理的なハードルは低い。
◆ 事業モデルの特徴
(1)プラットフォーム型の店舗ペースのシェアリングサービスを提供
同社の「わくわく広場」は一見すると通常の小売店と変わらないが、店頭の商品は同社が仕入れたものではなく、原則として登録生産者が自らの意思で出品した商品である。同社のビジネスモデルはインターネット上のフリーマーケットのようなプラットフォーム型のシェアリングサービスであるが、実店舗での販売スペースを地域の生産者と共有している点に特徴がある。
(2)登録生産者にとっては使い勝手の良い希少な販路
登録生産者にとっては、設備投資や人員の手当てを心配することなく、手軽に販路を確保できるというメリットがある。同社の「わくわく広場」は集客力のあるショッピングモールといった零細な生産者が出店・出品するのが難しいロケーションにあることも生産者にとっては魅力となっている。
加えて、同社の物流センター(千葉県2カ所、愛知県1カ所)を通しての出品或いは宅配便などを利用すると登録生産者の近隣の店舗だけではなく、同社が運営するすべての店舗を売場として活用できるため、登録生産者にとっては比較的容易に売上規模を拡大することが可能になる。
また、上述したように契約制ではなく登録制であるため、好きな時間に好きな物を好きな量だけ、登録生産者が自由に出品することができることから、出品者の負担は少ない。
(3)幅広い地域の商品を取り扱う
同社は、2000年9月にホームセンターの一角で農産物直売所を開始し、翌01年7月に「わくわく広場」の1号店を千葉県八街市に開店した。現在は農産物以外に店舗周辺地域のパン屋、和洋菓子店、飲食店などの商品、総菜、弁当や日本各地の中小規模の食品メーカーなどが製造する各種加工食品や調味料など、農産物以外の出品も増えている。
21/9期の流通総額に占める商品別の割合は野菜・果実が30%、弁当・総菜・パン類が31%、加工品などが23%、その他が16%となっている。従前から飲食店や食品製造者への出品を働きかけていたという下地もあり、新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに、売上を確保したいという飲食店や食品製造者が登録生産者となり、弁当、総菜、パンなどの出品が増え、流通総額が増加した。
(4)店舗運営はシンプル且つローコスト
店舗設備は平台、冷蔵ケース、レジなどとなっており、特別な販売設備は設置していない。値付けや陳列などの店舗業務は基本生産者自らが行っており、ローコスト運営となっている。
◆ 収益・費用構造
同社の損益計算書の営業収益には、1)わくわく広場での流通総額から仕入金額を差し引いた金額と2)不動産賃貸収入が計上されている。21/9期の金額は1)が5,299百万円、2)が228百万円となっている。
不動産賃貸収入は19/9期267百万円、20/9期244百万円、21/9期228百万円と漸減傾向にある。同社の方針として、今後、不動産賃貸事業を拡大する予定はない。
商品販売に関しては、消化仕入方式を採用していることから、登録生産者が決めた販売価格に対して同社が定める料率を基にして仕入価格を決定している。
損益計算書には売上原価(21/9期498百万円)が記載されているが、ロードサイド型の路面店で販売している生活必需品をメーカーから仕入れて販売しているものが一部あり、その販売額に対応するものが殆どである。他には登録生産者向けに提供している値札シールなどの販売原価が含まれている。
販売費及び一般管理費(以下、販管費)は21/9期の流通総額の22.7%、営業収益の78.5%に相当している。給与及び手当、ショッピングモールでの賃貸物件に対する地代家賃といったものが、大きな費目となる。21/9期では給与及び手当は販管費の42.1%、地代家賃は同じく25.5%を占めている。ちなみに、21/9期末に同社が差し入れている敷金及び保証金は447百万円だが、イオングループのデベロッパーやスーパー運営企業、大手不動産会社が差入先となっている。
直近3期間の損益計算書には特別損失として、固定資産売却損、固定資産除却損、減損損失、店舗閉鎖損失がほぼ毎期計上されている。過去に手掛けた様々な事業からの撤退費用や15/9期から17/9期にかけて急激に出店ペース(出店53店舖、退店3店舗)を上げた結果、不採算店舗が増え、その整理に伴う損失が中心である。18/9期から20/9期の退店は20店舗と高水準であったが、21/9期の退店は4店舗となり、不採算店舗の整理はほぼ一巡したため、22/9期より出店ペースを加速してゆく意向である。
◆ 重要業績評価指標
同社の業績を見る上で重要な指標として店舗数、登録生産者数及び利益の源泉となる流通総額が挙げられる(図表2)。
利益の源泉となる流通総額を拡大するためにはプラットフォームへ魅力ある商品が数多く出品されることが必要になる。小規模の登録生産者が多いため、個々の生産者からの出品の増加を期待するよりは、登録生産者数を増やす方が、出品量の増加につながり易い。この点で登録生産者数の拡大は重要である。
また、実際に商品が取引される場は店舗になるため、流通総額の拡大には店舗数の増加が必須となる。店舗網が充実しているか否かは登録生産者数の獲得に際しても重要な要素となるため、単に数の増加だけではなく、各店舗とドミナント化の進展度合や生産者が出品し易く且つ一定の集客が見込めるロケーションといったような個店の質と出店政策についても注視してゆく必要があると証券リサーチセンター(以下、当センター)では考えている。
流通総額は、利益の源泉としての役割以外に、資金の源泉としても重要と当センターでは見ている。仕入相当額を、月末締めで翌月15日に登録生産者に支払うという取引形態であるため、一定期間同社の手元に資金が滞留することになる。21/9期末の自己資本比率は0.7%と極めて低く財務の安全性は万全とは言えない状況下、流通総額が増加基調にあるか否かは、財務の安全性を評価する上で無視できないと当センターでは考えている。
また、買取仕入方式から消化仕入方式への転換が進んできているが、総額表示される(つまり同社が在庫リスクを追う)部分が仕入方式の変更により純額表示に切り替わる過程では、同社の取り扱い額(流通総額)が増加しているにもかかわらず、営業収益の伸びが抑制される、あるいは減少してしまうということになり、実態と乖離した動きとなる場合がある。同社の事業の拡大ペースと収益性を分析・評価する上で流通総額の動向に注目することは有用と当センターは考えている。