フィナンシャル・インテリジェンス部
塚本 憲弘
広木 隆
松嶋 真倫
山口 慧太
岡 功祐
過去の調整を検証、S&P500株価指数5%以上の下落は今後も発生し得る
前回「米国株一辺倒への警鐘(1) 今までと違う「割高さ」」にて、現状の米国株の割高さを検証した。この間にも2月20日付日本経済新聞朝刊で、米バンク・オブ・アメリカの2月機関投資家調査が発表され、“投資家の89%が「米国株が過大評価されている」”といったニュースが報道された。
第2回となる今回のレポートでは、割高さが意識される米国株が調整した場合のケーススタディーと、その際に投資家は買い向かえる環境にあるか。また、米国株の割高さを警鐘する立場として他アセットクラスを概観する。
まずは調整であるが約1ヶ月前の1月27日にはエヌビディア[NVDA]は1日で16.97%の下落を記録し、米史上最大となる5,890億ドルの時価総額が消失した。DeepSeekの登場による懸念が同社株の売りを呼んだわけだが、脆さが露呈したと言えないだろうか。インデックスレベルで過去の急落を振り返ると、市場のショックとなったイベントは数年に1度は発生していることがわかる(図表1)。
株式のリターンは正規分布ではなく裾の厚い分布を持つとされ、図表1のようなショックは発生頻度が低いものの、大きなインパクトのあるテールリスクといえる。なお、このような規模のショックとは言わないまでも、S&P500株価指数における週間5%以上の下落を確認すると、1980年から2024年までに40回発生しており、均せば年に1回以上は起きていることになる。2025年の同指数は週次で2%を超える下落はまだないが、5%以上の下落は発生し得るものとして頭の片隅に入れておいてよいだろう。
急落が発生した際のリカバリーのシナリオ、短期間で値を戻すか
ショックが発生した場合でも、直前のピークまで戻す期間は平均して約1年半程度であった。一方で2010年以降は、回復の早さもうかがえ4ヶ月から半年かからず値が戻っている。現在の米国株に調整が入ったと仮定し、直近を踏襲し短期間で値を戻すか、外部環境を確認したい。
ワールドダラーとは、世界中に流通する米ドルの総量、過剰流動性を捉える指標である。図表2の通り、コロナショック時のピークから減少しているものの過剰流動性は残っている。米国の量的引き締め(QT)も出口が見えてきており、先行きの米ドル供給がネックとなることは考えにくい。
また、2024年はFRBによる利下げサイクルが始まった中であるが米MMF残高も右肩上がりで、ある程度、投資家の資金は潤沢であることが推察される。米国株に調整が入った場合には、この潤沢な資金による押し目買いは可能で、クラッシュからの戻りのシナリオは描ける。一方で、現状の米国株のイールドスプレッドからもわかるように、リスクリターンの観点では利回りによるインカムゲインが合理的であり、MMFの取り崩しにはFRBの利下げ動向も大きな要因であることには注意したい(図表3)。
断続的利下げによる景気の景気鈍化への備えとしての分散投資
リカバリーの可能性はありMMFの資金は利下げとともに株式市場に流入すると期待されるが、断続的利下げは通常景気鈍化を伴うので、その場合の備えも必要で、やはりリスクヘッジの意味で投資先は分散すべきであろう。投資対象を分散しておけば、調整が実際に起きた際にポートフォリオ全体のダメージを軽減できる。
図表4は、各資産クラスのリターンについて直近1年間と5年間の相関係数をマッピングしたもので、1に近ければ相関が高いことが示される。米国株との持ち合いを考えたときに、直近1年で5年よりも相関が低いものは日本・米国・先進国の投資適格債やJ-REIT、金、暗号資産(ビットコイン)といったアセットクラスがあげられる(図表4縦軸S&P500との相関係数)。
株式については、一定の相関がみられるが日本株・新興国株式にはバリュエーションの観点で妙味があると考えられる(図表5)。指数ベースではなく、よりブレイクダウンし持ち合いが適当と考えられるセクターやファクターを検証する必要があるだろう。これらのアセットの深堀や、日本株・新興国株式を含めたアセットクラスの分析はおって発信させていただく。