年収の壁のありよう
・「年収の壁」はどのように見直すべきなのか。わが身にとってはどうか、と考えてみると理解が進む。学習院大学の鈴木亘教授の論考(日経経済教室2024年12月24日)を参考に、今後のあり方を考えてみたい。
・所得税の103万円の壁、社会保険料の106万円の壁、130万円の壁は、各々それを越えると短期的な不利益が生じる。税金や社会保険料の負担が断層的に増えるので、手取りが減ってしまう。そこで、手取りが減ってまで頑張る必要ないということで、各々の年収を超えないように行動する。
・それが働き手のインセンティブにマイナスに作用し、人手不足へも影響することになる。働ける人にはもっと働いてほしい。その働きに見合って、収入が増えるなら、それはやりがいにもつながる。このプロセスに、不公平感が生じないような仕組みになっていることが望ましい。
・名目の収入と手取りの収入には差がある。名目の収入が低い人には、税などの負担を軽くし、収入が増えるにしたがって負担も増えていくのが通常であろう。
・それが一定率の負担なのか。低収入のうちは負担率が低く、高収入になるほど負担率が上がっていくという段階的な方式なのか。
・その形には工夫の余地があり、高収入な人ほど相対的に負担が重くなるということは一定程度許容されよう。なるべく納得できる公平感は欲しい。
・年収103万円の壁のケースでは、学生バイトの年収が103万円を超えると、親の所得税の控除(特定扶養控除)が得られなくなって、親の税負担が増える。パートの主婦(サラリーマン扶養)の場合は、配偶者控除が年収150万円まで引き上げられており、210万円まで控除が徐々に減るので、サラリーマンの年収が控除によって急に減ることはない。
・106万円の壁のケースは、パート主婦(サラリーマン扶養)が、従業員51人以上の会社で週20時間以上働いて、年収が106万円以上になると、年金の第3号被保険者から外れてしまう。
・第3号の主婦は、自分の保険料を支払わなくても、主人の扶養として、主人が払っているということで、老後の基礎年金を満額受け取れる。第3号から外れると、社会保険料を自分で払うことになるので、手取りが急に減ってしまう。
・130万円の壁のケースでは、従業員50人以下の会社で働く場合でも、配偶者の扶養から外れるので、パート主婦は自ら社会保険料を支払う必要がでてくる。
・サラリーマンの扶養となるパート主婦は700万人ほどいるので、この人たちがもっと働いて、手取り収入が増えるなら、本人はもちろん、社会や経済への貢献も高まる。
・あまり参考にならないが、筆者のケースを考えてみよう。私は株式会社日本ベル投資研究所の代表取締役であるが、会社は社会活動としての貢献を第一としているので、私は会社からの報酬は受け取っていないし、配当もない。
・一緒に働いている人には130万円の壁があるので、この壁がなだらかにものになるのであれば、もっと働き易くなるのでありがたい。
・長年のデフレが終わって、インフレの時代に入ってきた。今の仕組みのままでは、まずインフレに対応できない。年2%のインフレが5年ほど続くのであれば、103万円の壁は113万円へ、106万円の壁は117万円へ、130万円の壁は143万円に上げる必要があろう。
・こうしたインフレカバーではなく、実際の所得を減税によって増やすのであれば、もっと上げる必要がある。
・さらに、壁があることによって生ずる不公平を直すのであれば、控除がなくなることによる負担や、社会保障料が発生する負担が断層的に起きて、手取り年収がガクンと減ることがないような体系にもっていく必要がある。そも方策はありうるし、さほど難しくないように思える。
・2024年末の税制改正大綱では、1)給与所得者の所得税の非課税枠を103万円から123万円へ引き上げ、2)特定扶養控除のこの年収要件を、103万円から150万円へ引き上げる案をまとめた。一歩前進ながらまだ不十分で、さらなる議論がなされよう。
・インフレは続きそうである。少子高齢化が進むので、人手不足は構造的である。もっと働き易い仕組みを多面的に作っていく必要がある。
・学生でも主婦でも高齢者でも、働きに見合って収入が増え、それが手取りの増加に結びつくと同時に、将来の年金にも反映されるのであれば、文句はない。不公平感をいかに解消するか。将来に対する不安に対して、信頼をどのように醸成するか。
・学生やパート主婦でない人はどうか。年金を受け取っている人でも、もっと本格的に働きたい人は多い。その時、働く収入によって、年金が減ってしまうのでは、インセンティブがそがれる。ここにも、工夫が求められよう。
・私の場合は自分の会社からの報酬はないが、会社とは別に外部の企業のアドバイザーなどに就いており、ここから一定の収入がある。それでも年金もフルに頂いている。まもなく後期高齢者の域に入るが、アナリストの仕事が続けられるうちは、仕事を絞りながらも続けたいと思う。
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