フィナンシャル・インテリジェンス部
塚本 憲弘
広木 隆
松嶋 真倫
山口 慧太
岡 功祐
一極集中化への警鐘
米国株の割高さは各所で指摘されているが、S&P500指数は2024年も堅調に推移し年間で23%上昇となった。2025年も総じて強気の見方が大勢を占めるが、改めて米国株の割高さを検証したい。
図表1は、S&P500指数とその構成銘柄のリターンを比較し、指数をアウトパフォームした銘柄の割合を集計したもの。過去25年における中央値・平均値はともに49%(図表水色、左軸)であり、インデックスらしく500銘柄のうち半分は勝つし半分は負けるといった結果になっている。特筆すべき点はここ2年ではアウトパフォームする銘柄は30%前後である点だ。これが意味するところはS&P500指数のリターンを分解すると500銘柄の中で7割は負け越すが3割が大勝ちし、指数はプラスのリターンを生んだということである。割合についていえば、1990年代後半に似たような傾向が見て取れ、90年代後半といえばITバブルだ。現在の状況をバブルというわけではないが、一部の銘柄に資金が集中しインデックスのリターンの大半が一部の銘柄で説明される点は類似している。
一部の銘柄とは言うまでもなくマグニフィセント7を始めとしたビックテックで、マグニフィセント7の年間ネットリターンは2023年に+106.8%、2024年は67.2%であった。時価総額はこの2年で、2.5倍となり2024年末ではS&P500指数のうち31%を占める。本レポートではマグニフィセント7に資金が集まる中で、米国株に割高さがないか検証したい。
割高とされるバリュエーションを再考する-利益成長の鈍化と投資へのハードル
米国株の主要インデックスPERを見ると、中型に分類されるS&P400を除きサイズ、スタイルともに現在の水準はヒストリカルに高い位置にある。広く言われている通り、割高と判断される水準で、多くの市場参加者もこれを否定できるものではないだろう。一般的に高PER銘柄は将来の高い成長性やイノベーションなどから高い期待が織り込まれて、そのマルチプルが容認される。
図表4は先行きの前年比利益成長の推移である。アナリスト予想を集計した予想ベースではマグニフィセント7の利益成長率は年毎に鈍化していくと見られている。PERの高さを正当化する利益成長率が鈍化しているわけだが、他の観点ではどうだろうか。
図表5の通り、成長の原資とされる「投資」は10年前と比較しマグニフィセント7が約7倍増加する一方で、そのほかの493銘柄は1.6倍程度である。先行きは予想ベースであるが、マグニフィセント7は今後も年平均15%の拡大が見込まれ、他493銘柄の同2%よりも旺盛である。多くの場合、この莫大な投資額が高PERを正当化しているが、折しもDeepSeekの登場によって莫大なコストをスキップしたAIの可能性を気づかされ、その投資規模に疑問が投げかけられたわけである。1月29日付けのストラテジーレポート「DeepSeekは騒ぎ過ぎ」にて指摘したように「必ず模倣され、より低コストで、より効率のよいものに取って代わられる宿命にある」のは歴史から学べることで、その莫大な投資額に割高さの正統性を見ることは難しくなったと思える。
過去実績では高PER時の投資は低リターンに
とは言え、利益がプラス成長なのだから問題ないといった意見も聞こえそうだが中長期的なリターン見込みが薄い。図表は、S&P500指数のPER水準ごとに、その時点で投資した際の1年後と5年後のリターン(年率)を集計したものだ。PERが高くても、翌年のリターンには相関性が見えないものの、5年といった中長期では期待リターンは低い(22倍以上ではマイナスのみである)ことが示唆される。現状のPER水準は22倍で、帰納的には5年後のリターン可能性は低いことが予想される。牽引役であったマグニフィセント7の利益成長が鈍化する点も含め、全体を丸めた指数ベースの割高さには例年以上に注意深くみる必要があると考えられる。2024年はNISA制度が刷新され、積立投資において、S&P500指数、もしくはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(内、米国の比率は66%である)に連動を目指す投資信託に資金が集まった。これらのみに投資している場合には、米国株が調整した場合には大きくポートフォリオが毀損される可能性がある。新規投資、プラスアルファでの投資対象としては改めて再考を促したい。また、米国株以外の分散投資先については次号にて紹介させていただく。