日経平均の史上最高値更新は”投資”から”投機”への号砲か?
2月22日に日経平均株価は89年12月の史上最高値を更新しました。PERが60倍にも達していた89年当時とは違って、現在は16倍台であることから全くバブルではなく、今後も株価上昇が見込めるとの見方が優勢のようです。
ただし、89年当時も株価が”バブル”であるという主張は極めて少数派でした(そもそも”バブル”という呼称はその後に一般化したものである)。僭越ながらまだ駆け出しの調査部員であった筆者も当時の株価には強い違和感を覚えていたのを記憶しています。
現在の株価水準が”バブル”であるとは申しませんが、株高は企業業績に支えられているとの見方には、その持続性に疑問を感じます。
実質GDP成長率は7-9月期、10-12月期と二期連続マイナスでした。これは円安とインフレによって、所得が国民(労働者)から企業に移転したものと考えられます(国もインフレで税収増となっています)。自動車等の輸出企業の業績も好調ですが、輸出は金額ベースでは円安で膨らんでいますが、数量指数ではこの12月、1月がようやくプラスになったところです。内需もコロナ禍からのペントアップ需要とインバウンドの回復に支えられており、23年の消費支出(家計調査 2人以上世帯)は前年比▲2.6%減少しています。実質賃金は23年は前年比▲2.5%の減少となっています。
GDP拡大には労働力量の拡大が重要ですが、人手不足は深刻な状況です。少子化の加速により生産労働人口の減少に加えて、働き方改革の推進、女性の労働参加率の天井感が人手不足をより深刻なものにしています。
人手不足が賃上げを通じてインフレ率の正常化を齎すとの見方もありますが、老後不安に備えた貯蓄性向の上昇によって消費へのインパクトは限定的と考えられます。生産性の向上が求められますが、量産型製造業では機械化・自動化が進むことや、世界経済の多極化(ブロック化)傾向によって現地生産が進むことで、国内で労働力が求められる職場は、生産性の低いより労働集約的なサービス分野となる可能性も考えられます。これを打開するには付加価値の高い産業を国内に立地すること以外にはないと思われますが、80年代のエレクトロニクスのような産業を生み出せるのか疑問が残ります(先端半導体への国家的投資がこれに値するのかもしれませんが・・・)。
さて、ここまでの言説を全く翻すようではあるが、だから株価が下がると決めつけることもできません。世界的に年金等の運用資産額が増加傾向を続けること、米国株が割高になり代替投資先が求められること(欧州はウクライナ戦争の影響もあり回復感に乏しい)、中国市場からの資金退避が生じていること、そうした環境下で日本株が選好されることには違和感はありません。米国市場が大崩れしない限り、あるいは地政学的な要因から商品市場が高騰しない限り、この構図はまだ継続する可能性があると思われます。
ただし、バリュエーション面では既に結構いい水準に到達しつつあり、ここからは”投資”から”投機”の時間帯に入りつつあるようにも感じられます。投機家は極めて短期的に行動し、方向転換を繰り返します。また、相場の終わりは突然訪れることが多く、予測も困難です。市場の動きが今よりもボラタイルになったときには十分な警戒が必要と考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。