足元好調でも通期予想据え置きなら株式市場の上昇は限定的

2023/07/11

 

先週の株式市場下落は、FOMC議事要旨(5日発表・6/13-14分)の公表が切っ掛けになったと考えます(前回、軽視してしまい失敗しました)。参加者18人中9人が残り2回の利上げを想定、既に利上げを終了したが2人、あと1回は4人、3回か4回を想定する3人、という内容でした。この内容を見る限り2回の利上げは確実視され、場合によってはさらに利上げされる余地も残ります。市場は、利上げは最大でもあと2回、1回で終わる可能性もある、と見込んでいただけに、冷や水を浴びせられた形となりました。

あと、2回利上げをするとなると米政策金利(FFレート誘導目標)は5.50~5.75%となります。消費者物価指数は5月が4.0%、6月(12日発表予定)の市場予想が3.1%ですので、実質金利プラス幅が拡大します。利上げは株式のバリュエーションにマイナスに働くのは勿論ですが、実質金利のプラス幅が拡大することで、株式から債券への資金シフトが強まる可能性も指摘されています。

FOMC議事要旨公表前は、堅調な経済指標に対して株式市場はポジティブに反応しておりましたが、一転して、FRBの利上げ姿勢が強まるものとしてネガティブに反応する方向に転換しました。6日発表のADP全米雇用リポート(6月)において非農業部門の就業者数の増加が市場予想の2倍以上であったことや、7日発表の米雇用統計(6月)では非農業部門の雇用者数が市場予想を下回ったにも関わらず(しかも4月、5月分は下方修正)、失業率の低下や平均時給の伸びが拡大したことなどがネガティブ材料と受け止められました。
7月のFOMC(25-26日)では利上げが確実視されておりますが、その後のFRBのスタンスを巡って混沌とした状態が続きそうです。

日本株は、6月最終週の米国株の上昇、日銀当局者による現状の金融政策維持を支持する発言、円安や自動車生産の回復、インバウンド期待などを受けて、日経平均株価は4日に33年ぶりの高値を記録しました(その後、利益確定売りや米国市場の下落を受けて反落)。
企業業績の好調を視野にアナリストコンセンサスはやや上方に振れつつあり、企業業績の上方修正への期待も強まっているように見受けられます。しかし、発表された3-5月期の決算を見ている限りでは、足もとが好調でも通期に対する企業の姿勢は慎重のようです。
7日発表の5月の1人当たり実質賃金(毎月勤労統計)は前年同月比▲1.2%と14カ月連続マイナスとなりました。同日発表の家計調査(2人以上世帯の消費支出)は前年同月比▲4.0%と3カ月連続マイナスとなりました。また、10日発表の6月の景気ウオッチャー調査では現状判断DIが5カ月ぶりに前月比マイナスとなりました。国内消費は回復が足踏み傾向にあるようです。

10日発表の6月の中国消費者物価指数は前月比横ばいとなりました。卸売物価指数は▲5.4%と9カ月連続マイナスが続いています。中国では不動産開発業者の資金繰り悪化から返済猶予を勧奨する指導が当局から発せられ、景気回復に難渋している様相が伺えます。

今月下旬から4-6月期の決算発表が本格化しますが、足もと(4-6月)が好調であっても通期に対して企業が慎重姿勢を堅持するようであれば、株式市場の上昇は限定的にとどまるように思われます。7月から8月は方向感が見えにくい展開が続きそうですが、相場の下落に備えつつ、優良株・成長株の押し目を探るタイミングと考えます。

 


 

 

この記事を書いている人

藤根 靖昊(ふじね やすあき)

  • 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
  • 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
  • 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。
アイフィス・インベストメント・マネジメント株式会社
5th Stage Lab「シン・日本株投資」   アイフィス・インベストメント・マネジメント株式会社
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