株式市場は危ういバランスの上での強気優位、それでも乗るか、それとも降りるか!
米国金融市場では5月のISM非製造業景況感指数(5日)が前月比▲1.6ポイントの50.3と22年12月以来の水準に低下したことから13-14日のFOMCでは利上げは見送られるとの見方が強まりましたが、6日にオーストラリア準備銀行が一時利上げ休止後に2会合連続となる利上げを、7日にカナダ銀行が休止していた利上げを再開したことから、FRBの利上げは継続するとの見方が一部に広がりました。
ただし、8日発表の週間(5/28-6/3)の新規失業保険申請件数が市場予想(23.5万件)を上回る26.1万件であったことから労働需給は緩みつつあるとみられ、やはり利上げが一時停止されるとの見方が支配的です。13日に米消費者物価指数、14日に米生産者物価指数(いずれも5月分)は前月から低下が予想されておりますが、利上げが一時停止されたとしても金利見通し(ドットチャート)のターミナルレート(前回は23年末5.1%)は幾分上方修正されるとの見方が有望のようです。
FRBの利上げ一時停止が見込まれる一方で、3日に債務上限の効力を25年1月まで停止する「財政責任法」が成立したことにより短期国債の大量発行が見込まれています。米財務省は7日に現金残高を6月末までに4,250億ドル、9月末に6,000億ドルまで戻すという指針を示しました。これにより、年内の短期国債の発行は1兆ドル超と市場では見込まれており、米2年国債利回りが上昇傾向にあります。
5月の中国貿易統計は輸出が前年同月比▲7.5%と3カ月ぶりに減少しました。中国国有の大手銀行は8日に一斉に預金金利を引き下げましたが、これが政策金利引き下げのシグナルとみられているようです。5月の中国消費者物価指数(9日)は前年同月比+0.2%と4月(+0.1%)よりは若干上向いたものの低水準にとどまっています。
日本国内も実質賃金、消費支出ともに4月はマイナスが続いており(実質賃金は13カ月連続減少)、行動緩和やインバウンドといった心理的な回復期待とは裏腹に景気の回復ペースは緩慢です。6日に世界銀行は23年の日本の経済成長率を前回(1月)の1.0%から0.8%に引き下げました。半導体関連と並んで輸出関連の株価が強含みに推移しておりますが、7日発表の貿易統計5月上中旬分速報では輸出は金額ベースで前年同月比▲2.9%とマイナスでした。前年の5月よりも対ドルで10円前後の円安であることを考慮すれば数量指数の落ち込みは大きいはずです。株式市場は日経平均33,000円とまだまだ強気派優勢が続いておりますが、実態経済との乖離が広がっているように見えます。
13-14日のFOMCを無事通過しても、7月(25-26日)のFOMCで利上げが再開されれば、短期国債の大量発行による米国金利上昇と相俟って、米地銀の信用不安が再び首をもたげる可能性があります。
株式市場の強気は、“持たざるリスク”の回避や、原油・ガス価格の低下に支えられたインフレ鎮静化という危ういバランスの上にあるように感じられます。
それでも乗るか、それとも降りるか、(いつもそうですが)難しい局面です。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。