輸出数量回復がなければ円安はマイナスでしかない、貿易統計をしばらくは注視!
先週のダウ工業株30種平均は、週末比較では前週比1,000ドル強の下落となりました。
①21日にS&Pグローバルが発表した2月の米国購買担当者景気指数(総合)が50.2(前月比+3.4)と8カ月ぶりに節目となる50を上回ったこと。②22日に公表されたFOMC議事録(1/31-2/1分)においては、数人の参加者が0.5%の大幅利上げ継続を求めていたことや参加者全員が「継続的な引き上げ」を支持していたことが明らかとなったこと。③さらに、24日発表の1月の米個人消費支出物価指数(PCEデフレーター)が前年同月比+5.4%と12月(+5.3%)から上昇したこと。これらの要因から金利上昇懸念に拍車がかかりました。米10年国債利回りは24日には3.98%と4%の大台に迫っています。また、複数のエコノミストが、米政策金利を6.5%に引き上げる必要性について指摘をし始めました。
米国株とは対照的に日本株は祝日前の22日には米国株安の影響から下落しましたが、比較的底堅い動きを続けています。24日にドル円が136円台半ばまで円安となったことによって輸出株が恩恵を受けたことや、同じく24日に衆議院で行われた次期日銀総裁・副総裁候補に対する所信聴取において現状の金融政策への支持が示されたことから安心感が広がりました(サプライズは無かった)。
他方で、バイデン大統領のウクライナのキーウ訪問(20日)、同氏のワルシャワでの演説「決してロシアの勝利にはならない」(21日)、ロシアの新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止(21日)、プーチン大統領のビデオ声明(23日)、中国外務省による停戦の呼びかけ(24日)、それに対するゼレンスキー大統領やバイデン大統領の反発。地政学的には緊迫感が高まっているようにも感じられます。
今週の米国経済指標は、28日:コンファレンスボード消費者信頼感指数、3月1日:ISM製造業景況指数、3日:ISM非製造業景況指数(いずれも2月分)が予定されています(雇用統計は10日)。市場予想を上回る強い数字が出れば金利上昇懸念に拍車がかかることも懸念されます。
米金利上昇は円安要因ではあるものの、過度の円安は日銀の長期金利操作を困難にするとともに、輸入物価の上昇によって国内消費者物価の押し上げにもつながります。円安にもかかわらず輸出数量が伸びない構造も不安視されます。1月の貿易統計では輸出数量指数が▲11.5%と2桁のマイナスとなりました。過去12カ月で輸出数量がプラスとなったのは2022年2月と9月だけです。また、輸出入ともに円安の影響を受けているにもかかわらず、2022年(年間)で輸出価格は+20.5%の上昇に対して、輸入価格は+39.6%と大きく上回って上昇しており、交易条件の悪化が目立っています。本年2月上旬分の速報値(2/24発表)では輸出(金額ベースは)+11.8%でした。数量指数は 公表されておりませんが、為替による押し上げが13%程度想定されるので数量ではまだマイナス基調にあるとみられます。
輸出数量がマイナスであるのは、半導体不足等に起因する供給面の問題と海外景気の不振が挙げられます。今後の国内経済や企業業績を占う面から貿易統計をしばらくは注視したいと考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。