日銀次期総裁への観測から株価浮揚も一過性
1日に米FOMC(1/31-2/1)の結果が公表され、市場予想通りに0.25%の利上げが行われました。声明文では「継続的な引き上げが適切」との文言が維持されましたが、会見に臨んだパウエル議長は「ディスインフレのプロセスが始まった」と強硬な引き締め姿勢から一歩引いた立場を取りました。「十分な引き締め的な水準にするには、あと2回ほどの利上げが必要だ」と牽制は示したものの、米10年国債利回りは一時3.3%台にまで低下しました。市場では依然として5月に利上げ停止、年内利下げを織り込んでいる模様です。
しかし、3日に1月の米雇用統計が発表されると流れは大きく一変、米国債利回りは3.6%台に上昇し、米国株は反落しました。非農業部門雇用者数は前月比51.7万人増と市場予想(20万人増未満)を大きく上回り、失業率も前月の3.5%から3.4%へと低下しました。同日に発表された1月のISM非製造業景況指数も55.2と前月比6.0ポイント上昇しました。市場ではサプライズとなりましたが、兆候はありました。前回の当コラムでも紹介しましたが、週間の失業保険申請件数は減少が続いています。2日発表の1/22-28週は18.3万件と前週比0.3万件減少(市場予想は19.5万件)と5週連続の減少となりました。
1日発表の12月の雇用動態調査(JOLTS)では非農業部門求人数が1101.2万件と前月比57.2万件増加し(市場予測1030万件)、2022年7月以来の高水準となりました。サービス業の人手不足は依然として続いているようです。
市場では引き締め強化によるリセッションが懸念される一方で、「50万の雇用があり、失業率が50年ぶり低水準になっている時にリセッションは起こらない」(イエレン財務長官・6日)との声もあります。次回のFOMC(3/21-22)では政策金利見通しが示されるだけに大きな転機になりそうですが、それまでの1カ月半は大きな揺らぎは生じないかもしれません。
他方で、地政学上の不安要素も増えつつあるようです。欧米ではウクライナへ戦車に加えて、戦闘機も供与されようとしています。また、米上空に現れた中国の気球を米軍が撃墜したこと(4日)に、中国からの反発が高まっています。5日にはロシア産石油製品の輸入価格に上限を設ける制裁がG7・EU・オーストラリアで発動されましたが、これに呼応するかのように、サウジアラビアはアジア・欧州向けの原油価格を引き上げました。中国経済の回復を見込んだとの理由ですが、ロシア産に上限価格を設定することで供給が絞られるとの見通しがあるように思われます。この数か月のインフレ率の低下は資源価格下落の影響が大きかっただけに資源価格にも注意が必要と思われます。
国内では、政府が日銀総裁の後任人事について雨宮副総裁に就任を打診したとの5日の報道を受け円安が進み、株価が上昇しました。現行の金融緩和路線が継承されると市場は捉えたようです。しかし、企業業績見通しは下向きにあり、深追いは禁物と考えます。
筆者も含めて市場参加者の多くは、2023年は、米国の金融引き締めの継続と企業業績悪化の顕在化によって、年前半に株価の調整が生じ、後半には回復するとの想定をしていたと思われますが、違った展開に向かっているかもしれません。利上げの停止と年後半の回復を前提とすることによって、積極的に売る理由は無くなります。GAFAMをはじめとして残念な決算が出てもむしろ悪抜けのような形になっているのは押し目を待つ投資家が多いことを示しているように感じます。その結果、上値は重いが深押しもしないという状況が続くのかもしれません。その後に本格上昇に向かうのか、落とし穴が待っているのかはまだ分かりません。
基本は細目に利確をしつつ、押し目で拾うという姿勢を徹底することと考えます。
6日にトルコで発生した地震ではトルコとシリアで4300人以上の死者が見込まれているようです。
大地震は悲惨ですが、それがウクライナ戦争の停戦の切っ掛けにならないかと考えてみたりもします。間もなく東日本大震災から12年になります。災害への備えを怠らないようにしたいと感じます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。