米国株が急落するとき

2017/08/09 <>

政治宣伝に用いられる「株高」

米国のトランプ大統領は、「雇用の増加」と「株価の上昇」をさかんにアピールしています。たしかに、失業率は16年ぶりの水準へ下がりました。米国株の成績は、日本株などと比べても抜群です(図表1)。

もっとも、同大統領の政策(あまり具体化されていませんが)と雇用増・株高の間に、論理的な関係は認められません。また、株高で皆が喜んでいるわけではありません。米国でも、株式の保有は富裕層に偏っているからです(図表2)。株価が国内経済の実体を反映するとは限らないことも、ほぼ常識です。

なぜバブルが生じるのか?

実際、米国の指標は、雇用を除けば精彩を欠いています。経済成長率も伸び悩んでいます。それでも、米国株は上昇しています。実体経済と株価が乖離しているとすれば、バブルそのものなのでしょうか。

バブルの発生・崩壊については、これからも避けられないでしょう。市場は、極端な楽観・悲観の間を往来するものだからです。また、バブル自体は必ずしも悪いことだと認識されていないからです。逆に、バブルを待望する人も少なくありません。政権も、株高は政策の成果だと宣伝することができます。

問題は、バブルがいつ終わるのか、3か月後なのか3年後なのか、誰にもわからないということです。そのため不安がつきまといますが、それを和らげようと、株高を合理化する様々な根拠が提示されます。

株高を合理化する四つの根拠

米国株がバブルでない、あるいはバブル終焉には遠い、という根拠を挙げるのは、極めて簡単です。

第一に、中国とユーロ圏を筆頭に、世界経済全体では予想以上の好調さを見せています。米国企業も、そのおかげで業績を伸ばしています。今の株高に寄与しているのは、そうしたグローバル企業などです。

その点と関連しますが、第二に、対ユーロなどでドル安が進んでいます。自国通貨安により、グローバル企業の利益は労せずして膨らみます(ただ、通貨の購買力低下という消費者の不利益を伴います)。

第三に、世界的な金融緩和(低金利など)という環境は、本質的には変わっていません。これらを受け投資資金が実体経済よりも金融市場へ向かう状況が続く限り、低成長と株高の並存は、ほぼ当然です。

第四に、政治リスクが小康状態となりました。特にフランスなどの選挙を経て極右の勢いが世界的に失速したことは、やはり好材料です。また、トランプ政権の迷走は、ほぼ織り込み済みとみられます。

バブルの条件は継続

これらは全て、真実を含んでいます。しかし、いずれも永続するものではありません。どれか一つ、あるいは複数が崩れたときこそ、米国の株価(よって日本の株価も)が下落に転じるときでしょう。

いま最も注意すべきは、第三の点だと思われます。つまり、米国が利上げを急いだり、ユーロ圏が量的緩和(中央銀行による資産買入れ)を性急にやめようとしたりすれば、市場の動揺は避けられません。

ただし現段階では、さほどの切迫感はありません。米連邦準備制度理事会(FRB)は、緩慢な利上げにとどめるはずです。何より、政策を実質的に動かす階層(政権や富裕層・投資家など)は、一般に株高を歓迎します。その意向に逆らってまで利上げを急ぐ勇敢さは、FRBにもないでしょう。よって、いま株価が急落局面に転じるよりは、バブルが本格化していく可能性の方が若干高い、と言えそうです。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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