世界自動車市場の概観と自動車株展望
【アナリストコラム 高田 悟】
世界の新車市場を概観する。日本はエコカー補助金打ち切りにより登録車が弱いが軽自動車は好調。商用車も10年程前の環境規制特需の代替期に入り堅調。北米は中心の米国市場回復が加速、リーマンショック前の水準に戻ったことに加え大型車好調が市場の強さを印象づける。四年連続世界一の中国は爆発的な普及期が終り昨年は伸びが減速したが、今年は再び拡大基調でここ数カ月は前年比10%前後の台数増が続く。ロシアを含む欧州は待ちわびた景気回復への兆が現れ始めたが市場は依然低迷。また、南米は堅調であったブラジルが足下は失速。最後にアジア圏はタイが第一次取得者購買支援の終了による反動を受け、インド市場は通貨安で悪化し、中心市場の悪化で全般に鈍化もようだ。
①日本市場の底堅さ、②北米市場の回復加速、③中国を除くアジア市場の減速、が自動車市場における従来からの変化だ。この変化の大きな要因として、円安進行と日本景気の回復期待、米国での景気回復の先行、米国量的緩和観測によるドル高/新興国通貨安などが指摘できる。FOMCで量的緩和縮小は見送られたが、これにより米国景気回復が確固たるものとなる可能性が高く、加えて米国でのシェールガス革命進行を踏まえるとこうした変化が持続する公算が大きい。エネルギーコスト低下が米国経済を活性化する。エネルギー自給自足でホルムズ海峡の安全確保も直接的には関係がなくなる。財政や貿易収支も健全化し、産業や投資は米国へ回帰する。米国景気は好循環に入り、強いドルが日本の景気にも好影響を及ぼす。リーマンショック後から景色はがらりと変わり、米国と日本の景気好調が際立ち、回復で遅れる他地域を支える構図が想定されるからだ。
こうした観測から目先数年の世界の新車市場を考察する。日本は人口減から長期的に市場は縮小。しかし、この先数年はアベノミクス、オリンピック効果による景気回復、HV車や低燃費の従来型エンジン車普及などから年400万台後半程度の販売水準は維持されそうだ。北米の中心米国市場は年1,500万台半ばまで市場は回復した。ピーク時の年間1,700万台への回復が見え始めてきている。住宅市場の力強い回復、ガソリン高への懸念後退、過去の買い控えの反動、などが販売増を支える。そして、中国、今年2,000万台載せはほぼ確実だが、欧州との繋がり、環境問題からの規制、格差問題などを踏まえるとこの先、拡大ペースは再度鈍化しそうだ。欧州は一旦鎮静したが、財政問題の根は深く簡単には市場は戻らない。ロシアは原油の供給過剰が懸念される。南米は米国景気回復が追い風だが欧州景気低迷の影響が残る。アジアは米国の量的金融緩和縮小が見送られたとはいえ、何れ起きる緩和縮小、米国金利高、新興国通貨安、新興国金利上昇からモータリゼーションの最中にはあるが市場拡大ベース鈍化が想定される。
さて、以上を踏まえ、日系完成車メーカーの業績を展望すると、数量面では主戦場である国内、北米の見通しが明るいことから恩恵を受けよう。リスクとして領土問題前の水準に近づく中国で不買運動が再然すること。ただし、これは予測不能である。もう一つはアジア景気の急激な悪化、若しくは参入増に伴う同地域での競争激化などによる販売減が指摘できる。これまでの投資の空振りになってしまうが、アジア諸国の通貨危機への対応に早さ、同地域での日系先行を踏まえれば大きな懸念は不要と考える。加えて業績影響の大きい為替は円安/ドル高持続が想定される。
主要市場での数量増と円安持続から国内完成車メーカーの業績見通しは各社毎の投資サイクルの違いが利益の出方で差を生むが総じて明るい。株価も総じて堅調が予想される。中でも北米の販売比重が高く北米で販売を伸ばせる先、輸出比重の高い先の投資妙味は米国景気の再悪化やドル独歩安への再転換がない限りにおいて投資妙味はまだまだ大きそうだ。因みに北米への販売台数依存度は富士重工業が5割以上、ホンダが4割強と大きい。輸出比重はマツダや富士重工業が高い。そして、北米景気と米国ラグジュアリー製品市場(マリン関連、大型二輪、四輪バギーなど)の回復がヤマハ発動機の業績向上に大きく貢献することなどが注目される。