TPPの発効は日本にとって大きなプラス

2018/12/06 <>

(要旨)
・TPP11は日本主導で締結されたもの
・自由貿易は国際分業でお互いにメリット
・農業の高齢化がTPPを可能にした要因
・新規加盟を希望する国が多い
・当初加盟国は追加加盟国より圧倒的に有利

(本文)
・TPP11は日本主導で締結されたもの
TPPは、米国を含む12カ国で交渉がまとまった後、米国が離脱したため、11カ国での交渉が再度行われた。この交渉をまとめあげた最大の功労者は日本政府であった。

日本政府はこれまで、「米国に追随するだけで独自の外交は出来ない」などと揶揄されて来たが、そうでは無いことを国際社会に見せつけることが出来たのである。加えて、世界が保護貿易主義に傾きかねない中で、自由貿易を守るために尽力している姿も、世界に発信することが出来た。

もしもTPPが発効しなかったら、日本政府の貢献も次第に忘れられていたかも知れないが、発効した事によって、日本政府の貢献が長く人々の記憶に残ることとなった。まことに喜ばしいことである。

・自由貿易は国際分業でお互いにメリット(初心者向け解説)
お互いが得意な物を作って交換すれば、お互いの生活が改善する、というのが分業の基本的な考え方である。それは、相手の能力の高低に関わりなく、そうなのだ。

筆者は毎日1時間かけて料理を3皿作り、1時間かけて皿を3枚洗っているとする。隣人は毎日2時間かけて料理を2皿作り、1時間かけて皿を2枚洗っているとする。明らかに筆者の方が能力が高いが、それでも隣人と分業すると良い事があるのである。

筆者は、2時間かけて料理を6皿作る。隣人は、3時間かけて皿を6枚洗う。筆者も隣人も、働く時間は分業前と同じなのに、食べられる料理が合計5皿から6皿に増えている。増えた1皿をどう分けるかの交渉は重要であるが、少なくとも2人とも分業前より良い生活が出来るようになる事は間違いない。

国際分業も、これと同様である。日本は豊かな国であるが、貧しい途上国とでも分業をするメリットがある。日本は得意とする工業製品を大量に作って輸出し、代わりに農産物等を輸入すれば良いのである。

・農業の高齢化がTPPを可能にした要因
以上は経済学の教えるところであるが、通常は政治の力が働いて自由貿易は推進されにくい。というのは、日本の農業従事者(および途上国の工場労働者等)が反対するからである。経済学者は気楽に「日本の農業従事者は、明日から工場労働者になれば良い」などと言いかねないが、実際にはそれは難しいので、経済学者の理屈どおりには世の中は動かないのだ。

ところが、今の日本では、農業従事者は多くが高齢化している。そこで、「10年後には農産物の輸入を自由化しよう」と政府が言い出しても、「10年後には自分は引退しているだろうから、反対する必要はない」と考える農業従事者が多い。したがって、それほど強硬な反対を受けることなく、TPPへの日本の参加が決まったのである。

農業という産業にとっては担い手がいなくなるという由々しき事態なのであろうが、日本経済にとってはそれが幸いした、と言えるであろう。

・新規加盟を希望する国が多い
TPPは、域内の関税を相互に引き下げるという条約である。そうなると、TPPに参加していない国にとっては困ったことになる。たとえば英国製品は、日本製品と競合しているが、TPP参加国の消費者から見ると「日本製品は関税がかからないが、英国製品は関税がかかるので、これからは英国製品ではなく日本製品を買おう」という事になりかねない。

そうなると、英国はTPPに参加したくなる。英国以外の国も、参加したい国は多いだろう。これから、TPPへの参加申請が増えると予想されている。

・当初加盟国は追加加盟国より圧倒的に有利
TPPを締結する際の交渉に於いては、「完全自由化が好ましいけれど、各国ともに絶対に譲れない条件があるはずだ。各国が絶対譲れない最低限の条件を出し合って、お互いにそこだけはワガママを認めあおう」という交渉が行われたはずだ。つまり、当初締結国は、最低限のワガママは通しているわけだ。

しかし、今後あたらしく加盟する国については、いちいちワガママを聞いて全部の国と再交渉をするのは大変なので、「個々の国のワガママは聞かない。今のTPPの条件を受け入れて加入するか、受け入れずに加入をあきらめるか、どちらかを選べ」と言われることになりそうである。

つまり、日本等の当初締結国は最低限のワガママを聞いてもらったのに、後から参加する国は最低限のワガママも聞いてもらえない、というわけである。当初締結国で本当に良かった。

余談であるが、筆者は入学式の日に新入生に「友達グループを急いで作りなさい。当初のメンバーは遊びに行く曜日や場所について希望を言えるが、後から参加するメンバーは黙って参加するだけだから」と言っている。同様のことが、国際関係でも遥かに大きなスケールで起こっているという事であろう。

(12月3日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
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