高金利通貨の暴落が更なる暴落を招くメカニズムを考える

2018/08/17

(要旨)
■本稿は高金利通貨に関する一般論。トルコの特殊事情には言及しない。
■そもそも、金利が高いのは、ハイリスク・ハイリターン
■賭けとしては興味深いかもしれないが
■市場が暴走すると、正しい値段以下でも大量の売りが出るかも
(本文)
■本稿は高金利通貨に関する一般論。トルコの特殊事情には言及しない。
トルコリラの相場が暴落している。トルコリラは、高金利通貨として人気が高く、日本人投資家のなかにもトルコリラを持っている人は多いようだ。

読者の中にも、トルコリラの相場が戻るのか否か、関心を持っている方が多いだろうが、戻る力と更に暴落させる力が綱引きをするので、難しい判断だ。そこで今回は高金利通貨の暴落について考えてみよう。

一つだけ冒頭で申し上げたいのは、損切りをせずに持ち続ける事は、ハイリスク・ハイリターンの投機である、という事である。もちろん、暴落した底値で買おうという行為が投機である事は当然だ。

もっとも、カジノの投機よりは少しだけ勝率が高いかもしれないので、読者が投機とわかって挑むなら、「おやめなさい」というつもりは無いが。

なお、トルコという国やトルコリラという通貨に関する個別の事情は専門家に任せて、以下では一般論としての高金利国xの通貨「xドル」の話をする事としたい。

■そもそも、金利が高いのは、ハイリスク・ハイリターン
暴落後の話をする前に、そもそも高金利通貨が何故高金利なのかを考えて見よう。すでにトルコリラを持っている読者は気を悪くするかも知れないが、今後の事もあるので、落ち着いてお読みいただきたい。

銀行や証券会社が筆者に「高金利通貨xドルへの投資はどうですか?」と聞いてきたとする。筆者はx国やxドルについて質問する前に、「なぜ、御社がご自身で投資されないのですか?」と聞き返すだろう(笑)。

X国政府は、異国の零細個人投資家である筆者に対して「高金利で金を借りたい」と言ってくる前に、世界中の銀行や投資家に借金を申し込んだはずである。それで断られたから筆者に借金を申し込んでいるわけだ。筆者にxドル投資を勧めている銀行や証券会社も、断ったはずなのだ。

これを逆から見れば、xドルには筆者が知らないリスクがあって、世界中の金融機関が融資を断っているに違いない、という事がわかる。それでも投資をするのか、という判断が必要なのだ。

■賭けとしては興味深いかもしれないが
高金利通貨の購入は、ハイリスク・ハイリターンの投機だと考えるべきである。そう割り切れば、老後のための資金を投入するわけには行かないが、カジノで遊ぶ代わりに高金利通貨に投資するのは悪くない。くれぐれも小遣いの範囲内で、であるが。

むしろ、カジノでルーレットをやるよりは、高金利通貨の方が期待リターンが大きいかも知れない。プロたちが怖がって買わないから、「本来あるべき値段より安い値段で取引されている」かも知れないからである。

そう考える理由は、プロの投資家たちは、リスクを嫌うからだ。プロたちは「確率5割で2倍になるが、確率5割でゼロになるような投資は行わない」のだ。「確率5割で3倍になるなら、確率5割でゼロになるとしても賭けて見る」と言う投資家は多いだろうが。

そうであれば、「確率5割で2.5倍になるが、確率5割でゼロになるような投資の案件」があったとして、プロは断るかもしれない。高金利通貨への投資がそれに近い話だとしたら、「プロに断られた案件だけれども、賭けとしてはカジノより面白い」と言えるだろう。

■市場が暴走すると、正しい値段以下でも大量の売りが出るかも
高金利通貨に投資するに際して、是非認識しておきたいのは、暴落が始まると、更なる暴落を引き起こすメカニズムが発動されかねない、という事である。「正しい値段(経済ファンダメンタルズに沿った為替レート)」を下回っても、売りが殺到して更なる暴落が続きかねないのである。

為替レートが暴落して経済の実態から考えて安くなり過ぎれば、買い注文が増えて元に戻る、というのが経済学の常識である。しかし、相場の世界では、時として暴落した相場が暴走して暴落を続ける場合がある。

株の世界でもそうした事は起こり得るが、高金利通貨の場合は一度始まると強烈なのである。株価が暴落しても、投資家が損するだけで当該株式会社の経営が傾くわけではないが、通貨が暴落すると当該国の経済が悪化する等の影響が生じるからである。

借り入れた米ドル(またはユーロ、円などの先進国通貨。以下同様)でxドルを買っている投資家は、xドルが暴落すると銀行が不安になって返済を要求してくるだろう。そうなると、その投資家は「暴落して正しい値段より安くなったので、買い増したいのに、銀行への返済のために売らなければ」といって泣く泣く売り注文を出すかも知れない。

また、機関投資家の中には「損切り」というルールを定めている所が少なくない。「一定以上の損を出した担当者は、持っている物を全部売って(ポジションをゼロにして)休暇をとって頭を冷やせ」というルールである。損失が際限なく膨らんでしまうリスクを避けるという目的と、担当者が頭に血が上って間違った判断をしてしまうというリスクを避ける目的だ、と言われている。

これは、担当者にとって辛い状況である。「暴落して正しい値段より安くなったので、買い増したいのに、ルールだから売らなければ」といって泣く泣く売り注文を出すわけである。

高金利通貨国は、総じて経常収支赤字国で、海外から多額の借金をしている場合が多いので、x国もそうであるとしよう。企業の借入も、高金利のxドルではなく相対的に低金利な米ドルを海外から借りている場合も多い。

しかし、そうした企業はxドルが暴落すると、返済負担が急増する。借りた時の米ドルは僅かなxドルに転換されたが、返済の時の米ドル購入には巨額のxドルが必要になるからである。

そうなると、破産の可能性が高まるため、x国企業にドルを貸している外国の銀行は不安になる。x国企業がドルを返済できなくなるリスクを気にして、借り手に返済を要請するであろう。それにより、x国企業が一斉にドルを買うので、x国通貨は一層安くなるはずである。

更には、投機家たちが上記を予想して「売りたくないのに売り注文を出さされる人が出てくるだろう。今のうちに売っておこう」と考えて売り注文を出すかも知れない。

最悪なのは、投機家ではない普通の富裕層や庶民が、自分の資産を米ドルに替え始めるケースである。投機家が米ドルを購入するのは「米ドルが暴落するかも知れないから、恐る恐る」であるが、普通の人が米ドルを買うのは「xドルが紙くずになりそうなので、持っている事が怖いから」である。こうした流れを止めるのは、非常に難しい。

こうした事の相乗効果でx国通貨はどこまでも下落を続ける可能性があるのである。

もちろん、そうならない可能性もあるが、それについては次回。

(8月13日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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