長期金利の基本は短期金利の予想
■金利には短期金利と長期金利がある
■長期金利の基本は短期金利の予想
■予想短期金利より長期金利が少し高い
■需給が歪むと理屈から乖離する場合も
(本文)
■金利には短期金利と長期金利がある
資金の貸借をする時には、返済期日を決めるのが普通である。返済期日が1年以内の場合を短期貸借、1年超の場合を長期貸借と呼ぶ場合が多い。本稿では、期間1年の短期貸借と期間10年の長期貸借について考えよう。
銀行が取引先に融資する際の金利は、市場金利に銀行の利益等々を上乗せして決められる事になるが、そこには個別の事情等が加わるだろうから、本稿では市場金利について考える事にする。ここで市場金利とは、銀行間の貸借の金利の事だとしておこう。
短期貸付の場合には、金利は貸出時点の市場金利が使われる場合が殆どであろうが、長期金利の場合には固定金利と変動金利の2通りある。長期貸借の場合には、途中で利払いを行なうのが普通であるが、ここでは毎年1回利払いをするとしよう。
固定金利というのは、貸借契約の時に「毎回の利払い時に、最初に決めた金利を用いて利払い額を計算する」というもので、変動金利というのは「毎回の利払い額は、その時の短期金利を用いて計算する」というものである。
具体的には、「貸出時に短期金利を用いて1年後の利払い額を計算し、その後も同様。すなわち1年後にその時の短期金利を用いてその1年後の利払い額を計算する」という場合が多いだろう。
つまり、変動金利の場合には、「1年借りて、1年後に返済して再び借りる」という行為を10回繰り返すのと同じ事になるわけだ。
■長期金利の基本は短期金利の予想
人々が「今後10年間の短期金利は変化しない」と考えているとしよう。借り手は「長期金利が短期金利と同じなら、長期金利で借りても不満はない」と考えるし、貸し手も同様に考えるので、長期金利の貸借が成立し得るだろう。
長期金利が短期金利より高ければ、借り手は短期の借入を繰り返す事を選択するから、長期貸借は発生せず、長期金利の方が低ければ貸し手が短期貸借を選択するだろうから、長期貸借が成立するのは長期金利と短期金利が等しい場合のみである。
つまり、長期金利は人々が予想する将来の短期金利と等しくなるのである。これは、人々が短期金利の変化を予想している場合でも同様である。
人々が「今後10年間の短期金利の平均は、今の短期金利の2倍である」と予想しているとすれば、長期金利は短期金利の2倍になるはずである。長期金利がそれより高ければ借り手が短期貸借を選ぶし、長期金利がそれより低ければ貸し手が短期貸借を選ぶからである。
ちなみに、人々の予想が一致するとは限らないが、それは問題ではない。人々の平均が短期金利の横ばいを予想しているとしよう。短期金利が上がると思う借り手は長期借入を選び、下がると思う貸し手から借りれば良いからである。
それとは別に、短期金利が下がると思う借り手は短期借入を選び、上がると思う貸し手も短期貸出を選ぶだろうから、短期の貸借の契約も同時に成立することとなろう。
■予想短期金利より長期金利が少し高い
実際には、長期金利の方が予想短期金利より少しだけ高いのが普通である。それは、貸し手が「長期金利が予想短期金利と同じなら長期は貸さないが、予想短期金利より少し高いならば長期で貸す」からである。
貸し手とすれば、10年契約で金を貸した場合には、途中で借り手の倒産可能性が高まっても返済してもらう事は難しいだろうが、短期で貸していれば返済を受けた時に「次回は貸さない」と言えば良いので、短期取引の方が安心なのである。その安心感を諦めても長期で貸すには、それに見合った高い金利を提示される必要があるのである。
もう一つ、貸し手が途中で資金が必要になる可能性もあるだろう。その場合も、短期であれば「次は貸さない」と言えるので、短期の方が安心なのである。
借り手が銀行ではなく政府である場合には、倒産する可能性は小さいだろうが、ゼロでは無いだろう。また、貸出という形式ではなく、国債の保有という形式になるため、返済を求めなくても国債を売却すれば良いので、気が楽だが、それでもその時に国債が安くしか売れない可能性なども考えると、やはり短期の方が安心だ、という事は言えそうだ。
■需給が歪むと理屈から乖離する場合も
以上が長期金利が決まる理屈であるが、実際には銀行間で長期資金の貸借が行われる事は稀である。長期で貸したい銀行は長期国債を購入するし、借りたい銀行は借りる代わりに持っている長期国債を売って「長期間固定されていた資金を取り戻す」のである。
そうした中で、最近の日本では奇妙な事が起こっている。それは、日銀が巨額の長期国債を購入している(つまり巨額の長期貸出を行なっている)ので、長期金利が人々の予想する短期金利の平均より低くなっているのである。更に言えば、日銀が長期金利を人々の予想する短期金利よりも低い水準まで押し下げているのである。
そこで、日銀が「今後は、今までほど無理には押し下げない」と宣言しただけで、長期金利が大幅に上昇しかねないわけである。昨年末に起きた事は、まさにそういう事だったのだ。
本稿は以上である。なお、本稿はわかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。
(2月2日付レポートより転載)