株価のファンダメンタルズは不安が山積

2022/04/08 <>

■株価はウクライナ停戦を見越して戻ったが・・・
■タイムラグを伴ってインフレ率がさらに上昇か
■世界経済の分断でグローバル化のメリットが縮小
■脱炭素化の動きが化石燃料の価格高騰を招く恐れも
■中国経済を巡る懸念が需要面、供給面いずれにも存在

(本文)
■株価はウクライナ停戦を見越して戻ったが・・・
年初来大きく下げていた株価は、かなり持ち直している。ウクライナを巡る停戦を織り込んでいるのかも知れない。しかし、ウクライナ前に近い水準にまで戻っているのは、違和感を感じざるを得ない。

もちろん、株価は合理的な動きをするとは限らないので、「戻ったのはおかしいから、また下がるだろう」などと言うつもりは毛頭ないが、ファンダメンタルズ(株価を考える際の経済等の基礎的条件)は決して明るく無い。

そこで、以下ではファンダメンタルズに不安が山積しているという事を記すこととする。

■タイムラグを伴ってインフレ率がさらに上昇か
欧米諸国では、インフレ率が高まっており、金融政策が緩和一辺倒から利上げへと変化している。これは株価にはマイナスであるが、問題は、現在のインフレが、ウクライナ以前の資源価格等を反映した数字だという事である。

ロシアによるウクライナ侵略は、資源価格等を高騰させたが、それが徐々に転嫁されて消費者物価を押し上げるのは、これからである。世界的な穀物生産地であるウクライナ地方が戦場となっているため、今後1年間の世界の穀物需給が逼迫して価格が高騰する可能性もあろう。

今後、次々と高いインフレ率が発表になると、株式市場に与える影響は拡大するかも知れない。

■世界経済の分断でグローバル化のメリットが縮小
ロシアと西側諸国との間の対立は、戦闘が終了しても簡単には戻らないだろう。そうなると、ロシアと西側諸国との貿易や投資が縮小することは避けられない。

これまで世界経済はグローバル化による恩恵を受けてきた。各国が得意なものを作って交換しあう「国際分業」によって、お互いに利益を享受していたわけだ。

しかし、今後はそれが逆流するかもしれない。ロシアの得意とする物をロシアから買う事ができなければ、2番目に得意な国から買うことになるが、それはコスト高をもたらすであろう。

短期的な混乱にも要注意である。ロシア産の物が買えなくなった場合、他国が増産しなければならないが、増産のための工場の建設には時間がかかるため、その間はロシアから輸入していた物が西側で不足する事になりかねない。

製造業の製品であれば西側に工場を建てれば良いが、資源等であった場合には、当該資源を使わずに工業生産を行えるような新技術を開発する必要があるかも知れない。そうなると、相当長期にわたって物不足が続く可能性もあろう。

■脱炭素化の動きが化石燃料の価格高騰を招く恐れも
ウクライナ以外にもリスクは多数ある。その一つが脱炭素化がもたらす化石燃料の価格高騰である。長期的に見れば、脱炭素化は化石燃料の需要を減らすため価格を押し下げる要因なのであろうが、短期的、中期的にはそうとは限らない。

「10年後には化石燃料の需要が激減しているだろう」と考えた人々は、新しく油田や炭鉱を開発しないだろうから、今後10年間は石油や石炭の供給が急激に減少していき、需要の減少を上回るかもしれないのである。

余談であるが、日本国内のバスの運転手が不足しているのも同じ原理かもしれない。10年後には自動運転が普及して大型バスの運転手の需要が激減しているだろうと言われる時に、大型免許を苦労して取得しようという人はいないだろうから、今後10年間は大型バスの運転手不足は深刻化し続けるかも知れない。

■中国経済を巡る懸念が需要面、供給面いずれにも存在
中国経済を巡る懸念も数多く挙げられる。需要面では、中国の景気が急激に落ち込むリスクである。不動産バブルの崩壊の懸念は、一時期よりは和らいでいるが、完全には安心できないだろう。経済発展よりも共産党体制の安定を優先する「共同富裕」という政策も、修正されたように見えるものの、まだ経済に悪影響を与える可能性は残っている。

供給面では、ロシアのウクライナ侵略に対して中国が寄り添う姿勢を見せた場合に、西側諸国の制裁の対象となって中国製品の輸入が制限されるようになる可能性もある。そうなれば、ロシアへの制裁とは桁が違う大きな影響が出てくるであろう。

新型コロナを完全に封じ込めようという中国政府の方針が、感染力の強いオミクロン株の蔓延によって、多くの都市のロックダウンをもたらし、経済活動が大混乱に陥るというリスクもあろう。これは需要面でも供給面でもリスクである。

制裁やロックダウン等による世界経済の混乱は、可能性は高く無いと信じたいが、頭の片隅に置いておきたい大きなリスクである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。また、当然のことながら、投資は自己責任でお願いしたい。

(4月7日付レポートより転載)

TIW客員エコノミスト
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