初心者が見るべき日銀短観のポイントを解説

2021/12/21 <>

■日銀短観は大規模なアンケート
■市場関係者の関心が高いので株価に影響
■景気予想屋は幅広い項目をじっくり見る
■アンケートの癖には要注意

(本文)
先日、日銀短観が発表された。内容を見ると、総じて言えば景気の回復を示すものとなっているので、投資家は安堵したのではなかろうか。内容については別の機会に論じるとして、今回は日銀短観というものについての初心者向け解説をしてみたい。

■日銀短観は大規模なアンケート
日銀短観というのは、日銀が実施している大規模なアンケート調査である。調査対象企業の数が多いのみならず、質問項目も多岐にわたっており、景気関連のアンケート調査は多数あるが、その中でも最も注目度が高く、有用性も大きなものと言えよう。

日銀が実施しているアンケート調査だということで、その結果が金融政策に影響するだろう、という思惑から投資家たちが注目しており、当然ながら株価予想屋も大いに注目しているわけであるが、景気予想屋たちも注目している。

「景気は気から」と言われているわけで、企業経営者の心理状態がわかるのは大変有難いことである。企業経営者が景気に強気か弱気かがわかれば、投資や雇用、生産の先行きを予想する上で大いに役にたつからである。

もうひとつ、アンケート調査の方が経済調査と比べてタイムラグが短い、という点も注目される理由であろう。経済統計は過去の姿であって、アンケート調査は現在の姿だ、と言われるが、集計期間の短さを考えると、概ね現在の姿だと言っても良いだろう。

また、調査項目の中には、計画や見通し等に関するものもあり、特にそれらは将来の事であるから、経済統計では知ることができないものである。

■市場関係者の関心が高いので株価に影響
市場関係者と景気予想屋の大きな違いの一つは、景気予想屋が幅広く経済指標等を観察して景気の大きな流れを把握しようとするのに対し、市場関係者は他の市場関係者が見ているものに神経を集中する、という事である。

日銀短観に関して言えば、市場関係者の関心は、配布資料の最初に載っている大企業製造業の業況判断DIに集中していると言っても過言ではない。日本の上場企業は大企業製造業が多いので、彼らの業況感は株価と密接な関係があるからである。

大企業製造業の業況感は景気予想屋も重視しているので、その点は市場関係者と共通している。製造業の方が非製造業よりも景気変動幅が大きい上に、製造業の景気が運輸業等々に影響を及ぼす場合も多いからである。しかし、景気予想屋はそれ以外の項目にも広く注目している点が異なるのである。

ちなみに今回の発表では、大企業製造業の業況判断DIは横ばいで、それ以外の項目に改善が顕著だったので、もしかすると市場関係者よりも景気予想屋の方が景気回復を実感しているかも知れない。

■景気予想屋は幅広い項目をじっくり見る
景気予想屋は、経済指標についても日銀短観についても、幅広い項目をじっくり見て景気の大きな流れを把握しようとする。

中でも、景気を予想する上で重要なのは設備投資計画であろう。設備投資はGDPの各項目の中で、規模が比較的大きく、振れ幅も比較的大きく、しかも景気の波を拡大する方向に作用する場合が多いので、大いに注目されるわけだが、日銀短観の場合には年度計画を聞いているので、景気の予想をする際に非常に役に立つのである。

ちなみにGDPの項目の中で、大きいのは個人消費であるが、これは振れ幅が小さいので、注目度はそれほど高くない。政府消費については、振れ幅が多くない上に、予算を見れば概ね検討がつく。

輸出は規模も大きく振れ幅も比較的大きいので、重要な項目であるが、これについては海外の景気担当に海外景気の見通しを聞くことが主な作業となる。

公共投資も重要な項目であるが、これも政府の予算および景気対策の意向を観察することで検討はつくであろう。

■アンケートの癖には要注意
アンケートは経営者のマインド等を知れる点では役に立つわけだが、一方で癖もあるので、それを理解した上で修正して情報として受け取ることが必要である。

もっとも重要なのは、悲観的な回答が多い、という点であろう。日銀短観の価格予想を聞いた項目を見ると、今後の売り上げ価格はあまり上がらないのに仕入れ価格は大いに上がる、という回答が多い。インフレの時期とデフレの時期で回答の水準は異なるものの、仕入れ価格の方が売り上げ価格より上がるという点に於いては一貫しているのである。

もしも、それが本当なら、数十年の間にほとんどの企業が倒産しているはずであるから、予想は誤り続けているということになるわけだが、これについては毎回同じ幅で悲観的なバイアスがかかっていると考えれば、実害はそれほど大きくないのかも知れない。

重要な設備投資計画についても、癖がある。3月調査と比べると6月に聞く実績が少なくなるのである。これは、計画していた設備投資の中に年度末までに完成しなかったものが必ず出てくるので、仕方ないと言えよう。

そうなると、3月調査より6月調査の方が前年比が高くなる。今年度の計画が変更になったわけではなくても、前年実績が下がると前年比が上がるからである。

こうした季節性がある事を理解した上で、設備投資計画は前年の同じ時期の数値と比べれば良いだろう。短観の発表資料には、後半に多くのグラフが載っているが、その中に最近数年の設備投資計画の年度内推移が載っているので、前年、前々年等と今年度の推移を比べてみれば、季節性の問題もクリアできる筈である。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(12月17日付レポートより転載)

TIW客員エコノミスト
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