景気予想屋が苦労するのは景気回復初期

2021/10/18 <>

■景気予測の基本は、景気が自分では方向を変えないこと
■政府の財政金融政策で十分か否かを経験と勘で予測
■海外経済の変化による国内景気変動に注意
■景気が順調に拡大している時は比較的ヒマ(笑)。
■景気回復初期の予測が最も困難

(本文)
■景気予測の基本は、景気が自分では方向を変えないこと
景気予想屋の仕事は3つである。今の景気の方向が上向きか下向きかを判断すること、財政金融政策によって方向が変わるかを判断すること、海外経済の異変によって国内の景気の方向が変わるかを判断すること、である。

景気は自分では方向を変えないから、今の方向がわかったら、財政金融政策か海外経済の影響で方向が変わるか否かを判断すれば良いのである。

景気が自分では方向を変えないのは、景気拡大時には物(財およびサービス、以下同様)が売れるので企業が増産し、そのために人を雇うので雇われた人が給料をもらい、給料が消費にまわるので更に物が売れる、といった好循環が働くからである。景気後退時には反対に悪循環が働く事は言うまでもない。

■政府の財政金融政策で十分か否かを経験と勘で予測
景気が過熱してインフレが心配な時は政府日銀が景気をわざと悪化させてインフレを防ぐことになるが、日本では過去数十年にわたって景気が過熱した事がないので、これについては本稿では触れないことにしよう。

景気が悪い時には、政府日銀は景気対策によって景気を回復させようとする。財政出動としての公共投資は、予算の分だけ需要が作り出されるので比較的影響が読みやすいが、減税については影響が読みにくい。所得減税のどの程度が消費に回ってどの程度が貯蓄にまわるのかも読みにくいが、設備投資減税をすると企業の設備投資意欲がどれくらい高まるのかは更に読みにくい。

それ以上に読みにくいのは金融緩和の効果である。金融緩和が景気に直接働きかける効果は小さく、ドル高円安や株高を通じた効果が主だからである。

金融緩和で金利を下げても、今の工場の設備稼働率が低い時には企業は設備投資をしないだろうし、ましてゼロ金利下で金融の量的緩和をしても企業の借入金利は下がらず、影響はほとんど無いはずだ。

したがって、金融緩和がどれくらいドル高や株高をもたらすのかを予想しなければならないが、それは非常に難しい。さらに、ドル高や株高がどれくらい景気を押し上げるのかも読みにくい。

通常は、それほど大きな効果が無いので、そう判断してよいのだろう。稀にアベノミクスの黒田緩和のような事があると予測が外れるが、それは仕方あるまい。

■海外経済の変化による国内景気変動に注意
海外経済の変化によって日本の輸出が増減し、それが景気に影響するので、海外経済の動向には要注意である。特に、米国の景気変動は重要である。

一つは、米国の景気が為替レートに影響し、それが輸出入数量に影響を与えるからである。もう一つは、米国の輸入は巨額なので、米国の景気拡大が米国の輸入増加を通じて世界の景気を拡大させ、日本の対世界輸出を増やすからである。

リーマン・ショックのような事が起きると、輸出が激減して日本の景気も大打撃を被るが、世界経済がリーマン・ショックから立ち直る過程では反対に輸出が回復するので日本の景気も回復する、といった事が起きるわけである。

もっとも、日本経済の担当者は自分で海外の経済を予測するわけではなく、海外経済の担当者あるいは海外の調査機関の話をしっかり聞くだけであるから、こちらは気楽なものである(笑)。

■景気が順調に拡大している時は比較的ヒマ(笑)。
景気が力強く拡大している時は、比較的ヒマである。海外経済に多少の変調があって輸出が多少減ったとしても、国内で売れば良いからである。

バブルの時には国内の需要が非常に強かったので、海外経済の動向はほとんど気にならなかった。「輸出が減ったら国内で売れば良いので、景気は全く心配ない」と言っていれば良かったのだ。

もっとも、日本経済は基本的に内需が弱く、外需頼みなので、筆者の長い経験でも外需が気にならなかったのはバブル期だけである。

そうは言っても、やはり内需が比較的強い時には比較的気楽でヒマである。海外で多少の事が起きても景気が方向を変える事はないからである。実際、2000年代と2010年代には長期にわたる景気拡大が続いていた。インフレが心配になるほど強い景気拡大ではないが、輸出が多少減ったくらいでは景気が後退するわけではない、という状況だったからだ。

■景気回復初期の予測が最も困難
景気予測が最も困難なのは、景気拡大の力強さが足りないとき、特に景気回復の初期である。病み上がりの人は少し寒風にあたっただけで風邪を患う、といったイメージであろうか。

海外で小さな景気後退があり、輸出が少しだけ減っただけなのに景気が下向きに方向を変えてしまう可能性があるので、景気予想屋は全く気が抜けない。場合によっては財務省が「景気が回復しはじめたから、景気対策は打ち切る」などと言い出して景気が再び悪化してしまう可能性も考える必要があるだろう。

景気が方向を変えるか否かは、嵐で傾いた船が倒れて沈むか倒れずに持ち直すか、といった状況に似ている。「あと1センチ波が高くなれば船が倒れて沈むが、そうでなければ船は立ち直る」という時に予想を当てるのは大変だが、予想が外れた時には非常に大きなハズレになるので、緊張するのである。

日本経済はバブル崩壊後の長期低迷期に、ずっと病み上がりのような状況であったので、景気の予想屋は結構緊張し続けていたわけだ。

もっとも、悪い話ばかりではなさそうだ。その分だけ、世の中で景気に関心のある人も多く、景気講演会なども多数開かれていただろうから、講演で稼いだ予想屋も多かっただろうから(笑)。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(10月15日付レポートより転載)

TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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