景気が循環するメカニズムを考える

2021/07/22

■在庫循環等は過去の話
■景気は自分では方向を変えない
■景気循環の基本は財政金融政策だが
■実際には海外からの影響による変動が主
■バブルとその崩壊が景気を動かす場合も

(本文)
■在庫循環等は過去の話
景気は循環する、と経済学の教科書には書いてあるが、その理由は在庫循環、設備投資循環等々である。かつては、在庫が増えすぎると企業が生産を減らすので景気が悪化し、そのうちに在庫が減ってくると企業が生産を増やすので景気が回復する、といった景気循環があったのだろう。

しかし、それは過去の話だ。昔は経済に占める製造業の比率が高かったし、在庫管理技術も稚拙だったから、経済規模に比べて在庫変動が大きかったのだろうが、最近は経済がサービス化しているし、在庫管理技術も進歩しているので、経済が在庫変動に振り回される事は考えにくい。

せいぜい、リーマン・ショックのような急激な景気悪化によって在庫が予想外に増えすぎて、それが生産の回復を遅らせる、といった程度の話であろう。

設備投資循環についても、昔と今では事情が異なっている。昔は設備の耐用年数が10年程度だったので、景気拡大によって設備投資が盛り上がると、10年後に皆が一斉に設備を更新するための投資が盛り上がり、それが景気を拡大させる、といった設備投資循環などもあったのだろう。

しかし、最近ではコンピューター関係の投資も多く、更新期間が10年とは限らないので、景気拡大の10年後に一斉に設備投資が盛り上がる、といった事も考えにくい。

■景気は自分では方向を変えない
在庫循環等々の影響が無視できるとすると、景気は自分では方向を変えない。景気が拡大している時には「物(財およびサービス、以下同様)が売れるので企業が生産を増やし、そのために雇用を増やすので、雇われた人は所得を得て物を買うようになり、一層物が良く売れる」といった好循環が働くからである。景気悪化時は反対の悪循環が働く事は言うまでもない。

企業が増産を続けると、新しい設備が必要になるため、設備投資が増加するだろう。企業は儲かっているので、経営者は強気であり、銀行も黒字の企業からの借入申し込みであれば気軽に応じるはずである。

地方自治体は、景気が拡大すると税収が増えるので、不況期に我慢していた公園建設等々のプロジェクトを実施するだろう。それがさらに景気を拡大させる事になるわけだ。

■景気循環の基本は財政金融政策だが
景気が方向を変える力として最も基本的なのは、財政金融政策である。景気が悪化しつつある時には、財政は公共投資や減税を行ない、中央銀行は金融を緩和する事によって、それぞれ需要を増やして景気を回復させようとするのである。

反対に、景気が良すぎてインフレが心配な時には、財政は歳出を控えめにし、金融政策は引き締めを行なって需要を抑制し、景気をわざと悪化させる事でインフレを抑え込もうとするのである。

財政政策は景気を拡大させるのは得意だが、インフレを抑えるのはあまり得意ではない。予算が成立しているならば、計上されている財政支出を急に減らすのは容易ではなかろう。

歳出削減がダメなら増税をしたい所だが、インフレ抑制のために増税する、というのは政治的に難しい上に、タイミング的にも難しい。インフレが懸念されるようになってから増税法案を国会で審議しなければならず、増税が実施される頃には景気が悪化している可能性もあるからである。

金融政策は反対に、景気を押さえ込んでインフレを抑制するのは得意だが、景気を浮揚するのは得意ではない。不況期には設備稼働率が低いので、金利が下がっても設備投資をしようという企業が出てこないからである。

■実際には海外からの影響による変動が主
もっとも、バブル崩壊後の長期低迷期には、財政金融政策はもっぱら景気回復のために用いられて来た。インフレが心配になるほど景気が回復する前に、リーマン・ショック等々によって景気が悪化してしまったからである。

日本経済はもともと内需がそれほど強いわけではないので、輸出が減ると生産が減ってすぐに景気が後退してしまうのである。したがって、景気予想屋の最大の仕事は米国の景気予想屋の予想を聞く事なのである(笑)。

筆者の数十年にわたる経験で、外需を気にしなかった事は一度しかない。バブルの時である。「輸出が落ち込んでも国内で売れるから景気には影響しない。海外の景気は見なくて良い」と思ったのが懐かしい。

■バブルとその崩壊が景気を動かす場合も
バブルの発生と崩壊は、財政金融政策の影響を受ける場合もあるが、財政金融政策の影響というよりも自律的に拡大し、自律的に崩壊する場合も多い。バブルの拡大は景気を拡大させ、バブルの崩壊は景気を失速させるので、バブルは景気の大幅な変動を引き起こす要因なのである。

バブルというと、滅多に起きない事だと思いがちだが、平成バブルの形成と崩壊、ITバブルの形成と崩壊、米国住宅バブルの形成と崩壊(リーマン・ショックの原因)といった事が筆者の現役時代だけで起きている。

バブルは、それほど珍しい事ではないのかも知れない。それだけ人類が過去に学ばない、という事なのだとすれば、悲しいことだが。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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